日本競馬が揺れた現役騎手による「禁止薬物」事件から8年。坂井瑠星、横山武史ら「5年連続」トップジョッキーを輩出…JRA「新ルール」が呼び込んだ若手黄金期【この日、何の日】2月12日編

「禁止薬物」に競馬界が揺れた2016年の2月12日

 ちょうど今年と同じく閏年だった2016年の2月12日。「禁止薬物」という見慣れぬ4文字に日本の競馬界が揺れた。

 JRAが抜き打ちで行った検査で禁止薬物に該当するオキシコドンが検出されたのは、当時短期免許で日本初参戦を果たしていたL.コントレラス騎手(発表は前日の11日)。ここまで2勝を挙げるなど、あろうことか現役バリバリのジョッキーから検出されたのだ。オキシコドンに限らず、国内で現役騎手から禁止薬物が検出されたのは、これが史上初だった。

 この結果、JRAはコントレラス騎手の即時騎乗停止を決定。事実上、短期免許中に騎乗することを禁じた上、向こう5年間JRAの短期免許を与えないことも発表した。

 コントレラス騎手の名誉のために簡単な説明をするが、オキシコドンはあくまでモルヒネなどと同じ痛み止めの一種。日本では、この前年にトヨタ自動車の女性常務役員が持ち込んだことが発覚する事件があったが、「痛み止めに使用した」として不起訴処分になっている。

 コントレラス騎手が騎乗していたアメリカなどでは強い痛み止めの一つとして利用されており(ただし快楽性を求めた乱用が米国で社会問題になるなど、まったく問題がないわけではない)、本騎手の落ち度は日本のルールを正しく把握できていなかったことだ。なお、身元引受調教師だった二ノ宮敬宇調教師には厳重注意が下っている。

 実は当時、コントレラス騎手以外にもF.ベリー騎手、D.マクドノー騎手、S.フォーリー騎手、F.ヴェロン騎手、D.バルジュー騎手と合計6名もの外国人騎手が短期免許でJRAに参戦していた。

 世界への挑戦を掲げ、急速な国際化を進める日本競馬にとって、国際色豊かな外国人騎手の参戦は喜ばしいことかもしれないが、数が増えれば当然管理するリスクも高まる。前述した通り、このオキシコドン問題も「日本と海外との文化や認識の差」が根幹にあることは否めなかった。

 事態を重く見たJRAは翌年に大きく動いた。

 これまで北米エリアで賞金リーディング30位以内、イギリスおよびフランスなら賞金リーディング10位以内だった短期免許所得の条件をそれぞれ5位以内に定めるなど、短期免許取得のハードルを大きく上げた「新ルール」を発表。また、1度に短期免許を取得できる最大数を5名までに限定している。

 この結果、前年2016年には合計18名が参戦するなど当時、猛威を振るっていた外国人騎手の参戦が大きく減少。国際色という意味では後退した日本競馬だったが、これが思わぬ「副産物」を生み出すことになった。日本人若手騎手の台頭である。

 迷ったらとりあえず「カタカナの騎手」と揶揄されるほど、外国人騎手たちが大活躍していた時代。その割を最も食らっていたのは、騎乗機会を奪われた日本人騎手たちだ。すでにその実力を証明しているトップジョッキー、中堅騎手ならまだしも、これからアピールしていかなければならない新人・若手騎手にとっては、輪をかけて深刻な問題になっていた。

坂井瑠星騎手 撮影:Ruriko.I

JRA「新ルール」が呼び込んだ若手黄金期

 実際に、若手騎手の活躍が目立つようになった現在のリーディングを見渡してみると、3位の坂井瑠星騎手が2016年デビュー、4位の横山武史騎手が2017年、5位の鮫島克駿騎手が2015年、6位の岩田望来騎手が2019年、7位の西村淳也騎手が2018年と、2015年から2019年の5年間で毎年トップ10入りジョッキーを輩出。奇しくも彼らはすべて「禁止薬物問題」、そして短期免許の「新ルール」創設の前後にデビューした若手たちだ。

 無論、今の結果は本人たちの並々ならぬ努力や実力があってこそ実現したものだが、これらはJRAにとって怪我の功名と言えるかもしれない。

 日本競馬を震撼させた禁止薬物問題から8年。再び閏年を迎えた2024年は年明けからA.ルメートル騎手、R.キング騎手、R.キングスコート騎手、R.ピーヒュレク騎手、L.モリス騎手と5名の外国人騎手が参戦。しかも5名全員が初の短期免許という異例の状況になっているため、この状況を心配する声があることも事実だ。

 だが、これも日本競馬が世界のホースマンから高く評価されている証と前向きに受け止めたい。今や日本を代表する一大レジャーとなった日本競馬は同じ轍を踏むほど愚かではないはずだ。

GJ 編集部

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