何故リカビトスは秋華賞トライアルを使わなかったのか?「遅れてきた大物」が本番を勝つための「長期的戦略」の全貌
それもレースでは課題のゲートで手こずり大きな出遅れ。後方からの競馬を余儀なくされると、中山2000mの4コーナーで外々を回らされる最悪の展開。それもレースは逃げたマイネルズイーガーが粘り込む前残りの流れで、状況は「絶望的」と述べても差し支えなかった。
しかし、リカビトスはそこから上がり最速の末脚で猛然と追い込むと、最後は逃げ粘るマイネルズイーガーをクビ差だけ捉えてゴール。まさに馬の素質だけで掴んだような勝利だった。
3月の段階で2勝目を上げたことで、陣営には様々な選択肢が生まれた。現実的な目標としてオークスに挑む選択肢も当然あったが、選択したのは休養だった。秋に備えて無理をせず、素質を伸ばすことを考えたのだ。
しかし、それは同時に秋の秋華賞へ向けた長期的なプランの始動でもあった。
早めに休養に入ったことで、6月には復帰戦を迎えることができたリカビトス。このタイミングでレースを使えるということは、ここを勝てば本番の秋華賞へ十分な間隔をもって挑めるということだ。それは体質の弱い本馬にとって、何よりもプラスになることだった。
「秋華賞の前に(トライアルの)紫苑Sを使うのが常識的だと思うのですけど、レースのダメージが大きい馬なので、トライアルから秋華賞というのは考え難かったです。早い段階で3勝目を挙げておいて、ここまで時間を取るというプランで来ていました。その通りに来ているので、やはり期待はしますね」(奥村調教師)
さらに陣営はローテーションを逆算し、リカビトスを完璧な状態で秋華賞へ送り届けるプランを実践すると同時に「本番で勝つ」ため、もう1つの計画を推し進めていた。
それこそが今回、新コンビを組むことになった浜中俊騎手の抜擢である。
本来、関東の美浦に所属する奥村武厩舎と、関西の栗東に所属する浜中俊騎手の接点はあまりない。実際に奥村厩舎は今年になって中央競馬で167回、管理馬を出走させているが、浜中騎手が騎乗したのは6月に1度あるだけだ。
依頼を受けた浜中騎手にしても、当時はまさに青天の霹靂。週刊ギャロップ(サンケイスポーツ)では、リカビトスの当時の印象に対して「調教で乗ったこともありませんし、同じレースで違う馬に乗って近くで見たこともありません」と語っているように、全く面識がなかったようだ。