【徹底考察】桜花賞(G1)・シンハライト&ジュエラー 「2本の矢」が「王者」に届く可能性は――
考察
1:32.8という驚愕のレコードでハナ差の接戦を演じたシンハライトとジュエラー。
本番と同じ舞台設定のチューリップ賞(G3)でのパフォーマンスとあって、例年であれば「桜花賞の主役」と評されても何らおかしくはない2頭だ。それだけ2頭とも強い競馬をしているのだが、今年は「異次元」といわれる2歳女王メジャーエンブレムが健在なだけに、立場はあくまで挑戦者。
では、そのチューリップ賞の内容を振り返りながら、どちらが「打倒メジャーエンブレムの筆頭」になり得るのかを検証したい。
まず、チューリップ賞全体の評価だが前半1000mを58.9秒で通過しながら、上がり3ハロンが33.9秒。単純なタイムだけの評価なら、これは「G1級」だ。ただし前週の阪急杯(G3)も同レースが1400mになって最も速い時計であったことから、その時期の阪神が時計の出やすい馬場だったことは確かだ。
レースでは、結論から述べると「道中はほとんど同じようなポジションをキープ」し、「直線でも同じ場所から」「上がり3ハロン33.0秒という同じ末脚」を繰り出したのだから、当然2頭の着差は接戦となる。本当に2頭で併せ馬をしているようなレースだった。
これは、おそらくシンハライトの鞍上・池添謙一騎手が意図的に作り出したレース展開だったように思う。つまり「シンハライトがジュエラーをマークしていた」ということだ。
お互い近い枠順でスタートしたが、シンハライトの方が僅かに前に出ながら、池添騎手は無理に行かずにジュエラーの隣まで下げた。そこからは巧みにジュエラーの外側を常に塞ぎつつ、自分はいつでも外に持ち出せるという、絶妙なポジションを取りながらレースを運んでいる。
ジュエラーからすれば外側をシンハライトに被せられ、前には馬群が固まっていることから道中は動くに動けない状況が続いていたということだ。
正直、もしすべてが池添騎手の思惑通り運んでいれば、最後の直線で突き抜けるシンハライトを尻目に、ジュエラーは馬群の中に封殺された可能性すらある。それくらい池添騎手のマークは徹底したものだった。
だが、結果的にハナ差の接戦に持ち込まれたのは、最後の直線で前にいたウインファビラスがよれてシンハライトの進路を塞いだためだ。池添騎手は仕方なくさらに外へ持ち出したが、その一瞬のスキをジュエラーの鞍上M・デムーロが見逃さなかった。
ジュエラーが、シンハライトとウインファビラスの間にできた僅かな隙間に入り込み本来の末脚を発揮すると、シンハライトも馬体を合わせて食らいつく。デッドヒートはゴールまで続き、結果的にシンハライトがハナ差で勝利した。
ジュエラーが、シンハライトとウインファビラスの間にできた僅かな隙間に入り込み本来の末脚を発揮すると、シンハライトも馬体を合わせて食らいつく。デッドヒートはゴールまで続き、結果的にシンハライトがハナ差で勝利した。
あくまでチューリップ賞だけで言えば、負けはしたもののジュエラーの方が強い競馬をしたといえる。逆に言えば、それくらいシンハライトのレース運びは完璧だった。
では何故、池添騎手がトライアルにも関わらず、ここまで徹底した騎乗をしたのか。それはレース後の「ミルコに(重賞を)5連勝され、日本人は何をしてるんだと思われたくなかったから気合が入った」という池添騎手の言葉に集約されているように思う。従って、今年のチューリップ賞は表面上のタイムだけでなく、中身も非常に濃いレースだったといえる。