【天皇賞・春(G1)回顧】北島三郎の「無茶ぶり」に武豊騎手もパニック!?キタサンまつりに終わった春の天皇賞
今年は近年まれに見る充実したメンバーが集った、春の天皇賞だった。
有馬記念を勝ったゴールドアクターを筆頭に、ライバルのサウンズオブアース。前年の菊花賞馬キタサンブラックに、阪神大賞典で強い競馬を見せていたシュヴァルグラン。昨年2着のフェイムゲームに3着のカレンミロティック、さらにはここで復活を期すトーホウジャッカルと、各世代から魅力的なメンバーが集結した見所のある一戦だった。
レースは、最内枠から抜群のスタートを切ったキタサンブラックがまずハナを切る。だが、武豊騎手の手は、それほど激しいアクションを起こしていない。
この動きから推測するに、武豊騎手の中では菊花賞のような「先行インベタの競馬」を『プランA』とし、ほぼ同評価の次点で「誰も競り掛けてこなければ、スローで逃げる」という『プランB』の2つの選択肢があったはずだ。
その上で競り掛けてくる馬がいなかったので即座に『プランB』を採用し、ハナに立ったということだろう。実際に「今日はスタートしてから、作戦を決めようと思っていた」という武豊のレース後の発言が、この裏付けとなっている。
2番手にヤマニンボワラクテ、3番手にカレンミロティック、サウンズオブアースも今日は積極的に好位を獲りにいった。ゴールドアクターはやはり外枠が響いたのか、これらより後ろの位置取りだった。
正面スタンド前に入ったところで隊列は落ち着き、大歓声の中を18頭がほぼ一塊になって進んでゆく。前半の1000mの通過タイムは61.8秒。あまりに遅すぎては他の先行馬が痺れを切らす危険性のある中、まさに「絶妙」と言えるスローペースだ。
遅いのだが遅すぎず、遅いのだが強引に動くにはリスクのあるペース……まるで、ライバルすべての騎手の「妥協点」を的確に突くような鞍上武豊の”魔法”が、出走全馬を覆い尽くしているようだった。
向こう正面に入っても、隊列はほぼ乱れない。2000mの通過は123.5秒。61.8秒の2倍が123.6秒なのだから、武豊の「体内時計の正確さ」には戦慄さえ覚える。レースは完全にキタサンブラックのペースに落ち着いていた。
ペースが上がったのは残り800mを切ってから、まさに第3コーナーにある「淀の坂の下り」に差し掛かったところだった。1番人気のゴールドアクターが満を持して、進出を開始したのだ。
しかし、その一方でキタサンブラックには”王者”の進出に抵抗するだけの余力が、十二分に蓄えられていた。