【天皇賞・春(G1)回顧】北島三郎の「無茶ぶり」に武豊騎手もパニック!?キタサンまつりに終わった春の天皇賞
2番手にいたヤマニンボワラクテを競り落としたものの、4角先頭からの粘り込みを図ろうとしたゴールドアクターだが、あと一頭が捕まらない。鞍上吉田隼人の計画図が、ズルズルと溶けていく。
完全にレースを支配し、最後の直線で先頭に立ったキタサンブラック。ここまで「誰も競り掛けてこなければ、スローで逃げる」という『プランB』を採用した武豊騎手にとっては、まさに理想的、完璧なレース運びだったように映る。
しかし、この武豊の完璧なペース配分を「しめしめ……」とほくそ笑んでいる、もう一人の男がいた。この展開で武豊騎手のもう一つのプラン「先行インベタの競馬」を実践し、全馬の中で最も大きな恩恵を受けていたカレンミロティックの鞍上・池添謙一騎手である。
道中ずっとキタサンブラックのすぐ後ろにいたカレンミロティックは、まず手応えがなくなったゴールドアクターを競り落とすと、前を行くキタサンブラックに一歩一歩詰め寄る。武豊騎手にとって完璧なレース運びは、同時に池添騎手にとっても理想的な展開だった。
まるで、キタサンブラックを徹底マークした、大阪杯のアンビシャスと横山典弘騎手のような競馬。枠順、展開、ペースとすべてを味方につけたカレンミロティックは、力強い足取りでキタサンブラックの前に出る。一瞬、このままカレンミロティックが勝つと思われた。
しかし、ここからキタサンブラックが菊花賞馬の意地を見せる。武豊渾身の”ゲキ”に応え、人知を超えた粘り腰を見せるキタサンブラック。桜花賞を悔しいハナ差で落としていただけに、もう絶対に繰り返したくないと必死に馬を追う池添騎手。
お互いがまったく譲ることなく、2頭が並んだままゴールを駆け抜けた。
ゴール直後、どちらが勝ったのかまったくわからなかった。キタサンブラックか、カレンミロティックか。大観衆のどよめきに包まれた長い写真判定の結果、天皇賞・春を制したのは前者だった。
「ああ~、まつりだ、まつりだ、キタサぁンまつり。今日はユタカさんとまつりだよ~」
「ああっ、いえいえ、結構です。結構です」という武豊騎手の必死の抵抗?で、残念ながら武騎手による「まつり」の披露はなかったが、もはや”定番”となったキタサンブラックのオーナー北島三郎による「まつり」が、京都競馬場に”勝利の凱歌”として響き渡る。
桜花賞に続き、またも際どいハナ差で涙を飲むことになった池添騎手は「完璧なレースができて、馬も応えてくれたんですけど……」と唇を噛みしめる。上位2頭と同じく、道中内々で脚を溜め続けていたシュヴァルグランが直線で馬群を割って伸びたが、3着が精一杯だった。
対照的に、いつものように積極的な競馬を仕掛けていったゴールドアクターは最後の直線で失速し12着。スローペースに持ち込まれ、展開が向かなかったフェイムゲームも8着止まりだった。
4着のタンタアレグリアも含め、若い4歳世代の活躍が目立ったレース。ドゥラメンテやリアルスティールなどタレント揃いのこの世代が、競馬界をリードする時代の到来を予感させる天皇賞・春だった。