JRA浜中俊「ゴルシ級ワープ」が小倉で炸裂! 敗れた騎手も「勝ったかと思いました」と落胆、ディープインパクト産駒の怪物が反撃の狼煙

浜中俊騎手

 5日、小倉競馬場で行われた関門橋S(OP)は、浜中俊騎手が騎乗した1番人気ディープモンスター(牡5、栗東・池江泰寿厩舎)が勝利。かつて武豊騎手とのコンビでクラシック候補として期待された実力馬が、2年ぶりの勝利で反撃の狼煙を上げた。

 昨秋の2走はいずれも1番人気で2着に連敗。あと一歩のところで勝利に手が届かなかったが、今年初戦を見事に勝利。再び重賞戦線に殴り込みといきたいところだ。

「馬の感じは良く、力のある馬に良いタイミングで乗せてもらえました」

 レース後、会心の勝利をそう振り返った浜中騎手だが、馬の状態や実力は勿論、浜中騎手の好騎乗も光るレース内容だった。

 2着馬と1馬身1/2の着差こそあったが、最後の直線では先に抜け出していたダンディズムが完全に勝ちパターン。外から伸びてくる馬もおらず、これには富田暁騎手も「勝った」と、ほくそ笑んでいたはずだ。

 ところが「勝負は下駄を履くまで分からない」とはよく言ったもので、内からスルスルと末脚を伸ばしたディープモンスターが差し切ってしまった。視界から消えていたはずのライバルが突然現れて勝利を攫っていったのだから、人気馬を見ながら競馬をしていた富田騎手が「勝ったかと思いました」と狼狽したのも無理はない。

 まさに「してやったり」といった感じの浜中騎手だが、実はレース前から勝つためにどう乗るかのイメージを描いていたのだ。浜中マジックといってもいいミラクル勝利は「馬場は内が良く、内に固執してレースをしました」という言葉に集約されていた。

「ゴルシ級ワープ」が小倉で炸裂!

 15頭立ての芝2000mで争われたレース。差し馬が7枠13番の外枠からスタートするだけに、大抵は外を回したダンディズムのようなコース取りとなるケースが多い。一言に内に固執するといっても自分より内に12頭もいる訳でそう簡単な話ではないだろう。

 だが、幸運にも快速馬レッドベルオーブが出走していたことが、不可能を可能に変えるチャンスをもたらした。

 スタートを無難に決めたディープモンスターは、素早く内に進路を取って7番手をキープ。レッドベルオーブが1000m通過56秒6のハイラップで大逃げをしたため、馬群が密集しないのも好都合だった。

 道中でも徐々に内へ内へと潜り込んでいき、最後の直線ではインピッタリから前のニホンピロスクーロを交わすだけの状況。その間、浜中騎手はじっと我慢し、最内に1頭分のスペースが出来たのを確認するやいなや満を持してゴーサインを出した。

 勝負どころである3~4コーナーで外からマクるような格好で上がっていったダンディズムに対し、道中のロスを最小限に抑えていたディープモンスターの末脚は十分過ぎるほど溜まっていたに違いない。もし浜中騎手が内ではなく外を回す競馬をしていたなら、勝ち馬は違っていたかもしれない。

 このレースでふと思い出したのが、芦毛の怪物ゴールドシップが「ワープ」したといわれる2012年の皐月賞(G1)だ。

 当時もメイショウカドマツとゼロスが後続を大きく離す展開でゴールドシップは最後方、ワールドエースは後ろから2番目の位置にいた。3~4コーナーにかけて内から上がったゴールドシップに対し、ワールドエースは大外を選択。結果的に2頭のワンツーで決着したが、ロスのない競馬をした勝者と外を回さざるを得なかった敗者という構図となった。

 また、稍重の開催とあって内目の馬場が荒れ気味だったことも、馬場のいい外を走らせたい騎手の心理も影響していたとはいえ、渋った馬場を苦にしないゴールドシップの武器を生かした内田博幸騎手の好判断も称賛される快勝でもあった。

 ファンの間では「ワープ」に例えられた名勝負ではあるが、関門橋Sで浜中騎手とディープモンスターが演じたイン差しも、ちょっとしたゴルシ級ワープといえるだろう。

 今回は騎手の“神騎乗”が目立つ勝利だったものの、馬の実力がなければ成立しなかったことも事実。ディープインパクト産駒の怪物といわれた逸材だけに、次走では馬の強さが際立つ走りに期待したい。

高城陽

大手新聞社勤務を経て、競馬雑誌に寄稿するなどフリーで活動。縁あって編集部所属のライターに。週末だけを楽しみに生きている競馬優先主義。好きな馬は1992年の二冠馬ミホノブルボン。馬券は単複派で人気薄の逃げ馬から穴馬券を狙うのが好き。脚を余して負けるよりは直線で「そのまま!」と叫びたい。

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