岡部幸雄「戦う勇気ではなく、やめる勇気」復活の勝利からわずか4日後の悲劇…規格外の「シンボリ」の記憶【東大式必勝馬券予想】

 今週末から秋競馬開幕!中山&阪神に舞台が戻ってくる。

 食い意地が張っている私は、初日の朝飯は『ど・みそ』の中山スペシャルみそらーめんにしようか、『金久右衛門』の大阪ブラックにしようか、今から迷う……。約1か月は第3場開催がないので、その分じっくりと酷暑の夏を乗り越え秋のG1戦線を目指す駿馬たちの走りを胸に刻みたい。

 注目のレースは10日(日)の第68回京成杯オータムハンデキャップ(G3、中山・芝1600m)。昔は京王杯~と呼ばれていて、なぜ京成電車で行く中山で京王杯なんだろう?と大疑問だったが、1998年に京成杯~と改称。同時に府中開催の京成杯3歳Sが京王杯~となり“JRA謎の腸捻転“は解消された。

 2012年からはサマーマイルシリーズの最終戦に指定され、勲章が欲しい夏の活躍馬と、夏は休養に充て秋G1へ向けて始動する実績馬が激突する難解レースとなっている。

 歴代優勝馬にはスターロツチ、ナスノチグサ、エルプス、ダイナアクトレスらG1級の超名牝の名が並ぶが、ここは1989年(平成元年)優勝の牡馬、マティリアルを取り上げたい。

 “史上最弱の人気先行馬”とも揶揄された彼の、最後の重賞勝ち、そして“最期の”レースとなったのが、まだ京王杯時代のこのレース。1984年シンボリ牧場で生を受けたマティリアル。父パーソロン、母父スピードシンボリは、あの皇帝ルドルフと同じ。シンボリ軍団の総帥で馬主の和田共弘氏は、彼を将来フランスで走らせようとあえて冠のシンボリをつけず素材=Materialと命名したと聞く。

 英才教育を受けた彼は、ルドルフの主戦・岡部幸雄を背に2歳(現行呼称、以下同)10月の新馬戦を楽勝。特別戦3、1着を経て3歳春、皐月賞トライアル・スプリングS(G2)に駒をすすめる。

 東西の2歳チャンピオン、メリーナイス、ゴールドシチーを差し置いて1番人気に推されたマティリアルは最後方からのレース。残り1ハロンでも7番手。誰もがダメだと思った瞬間、♪ところが奇跡か神がかり、居並ぶ名馬をごぼう抜き~名曲『走れコウタロー』の歌詞そのままの鬼脚を繰り出し1分49秒3のレコードで優勝したのだ。

 度肝を抜かれたファンは、当然のごとく皐月賞もダービーも彼を1番人気に祭り上げるが結果は3、18着。秋の菊花賞も「菊の季節に桜が満開」サクラスターオーの13着に敗れ、2年半の間14連敗という長いトンネルに入ってしまった。

 しかし5歳の夏、マイルの関屋記念で2着となり出口の明かりは見えたと、和田氏は鞍上を岡部騎手に戻しオータムハンデに出走させる。マティリアルは中山をわが庭と覚醒したか、堂々の先行策。直線入り口で先頭に立ちそのままゴールまで押し切り、2年半ぶりの勝利!

 極上の素材(=material)が花開いたと思った瞬間、神様は意地悪だ! 悲劇が待っていた。

 喝采するスタンドの観客の前で彼は突然歩様を乱し、岡部騎手も下馬。診断は予後不良級の骨折。安楽死は避けたいと手術は成功するも、ストレスで出血性大腸炎を発症。復活のゴールからわずか4日後、マティリアルは天に召された。

 中山競馬場の馬頭観音にたてがみが納められ、岡部騎手は後に「戦う勇気ではなく、やめる勇気」と自著で悔いた。


 ここらで「東大馬券王の大よそー」に移ろう。

 鉄則「同コース同距離の実績を最重視せよ!」中山1600mを3戦3勝で今年のダービー卿CT(G3)も勝ったインダストリアを頭に。

 相手は中山マイル2戦2勝だが、いまいち安定感に欠けてハンデもキツそうなソウルラッシュよりは、これも鉄則「まだまだ夏の牝馬」、同じ中山マイルのターコイズSを2度制し、今夏はクイーンSを1走したミスニューヨークに食指が動く。昨年のこのレースは僅か0.1秒差の4着。メンバー最多の6勝をあげ4勝は中山。

 インダストリアから1→2(3)着の三連単で攻めたい。だが、もし馬券がはずれても全馬ケガなくゴールしてくれれば、この上ない喜びとしよう。

 菊池寛翁も曰く「無事之(これ)名馬」だ。

尼崎昇

初めて見たダービー馬はタニノハローモア。伝説的な名馬の走りをリアルタイムで見てきた筋金入りの競馬通は「当たって儲かる予想」がモットー。過去に東京大学で競馬研部長をつとめ、スポーツ新聞やラジオ解説を担当した勝負師の素顔は「隣の晩ごはん」や「おもいッきりテレビ」などの大ヒット番組を手掛けたキー局の元敏腕プロデューサー。德光和夫、草野仁ら競馬界の著名人との親交もあり、競馬談義を繰り広げる仲である。

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