風雲急を告げる菊花賞戦線…ソールオリエンスが敗れタスティエーラは「50年ぶり」の壁、混戦模様のキーワードは「マヤノトップガン」を探せ?
秋競馬を迎えた3歳世代は、各地でラスト一冠のトライアルレースが開催。牝馬は紫苑S(G2・勝ち馬モリアーナ)とローズS(G2・勝ち馬マスクトディーヴァ)、牡馬はセントライト記念(G2・勝ち馬レーベンスティール)が行われ、トライアルは今週末の神戸新聞杯(G2)を残すのみとなった。
牝馬限定戦のローズSをレコード勝ちしたマスクトディーヴァは、この先が楽しみになる強い勝ち方だったが相手は強力。春の牝馬二冠で圧倒的な存在感を見せたリバティアイランドにどう立ち向かうか。
対する牡馬の方は、風雲急を告げる菊花賞戦線となりそうだ。
無敗で皐月賞(G1)を制したソールオリエンスの変則二冠達成に期待する声が多いものの、確勝を期したセントライト記念でレーベンスティール相手に痛恨の敗戦。両馬がデビュー戦でクビ差の接戦を演じていたことは間違いないが、G3のラジオNIKKEI賞で3着に負けていた相手にリベンジを許したことは、陣営にとって少なからずショックだっただろう。
J.モレイラ騎手が完璧な騎乗で勝利をもぎ取ったことに変わりはないが、前哨戦を敗れたとはいえ、ソールオリエンスも後方から外を回すスムーズさを欠いた競馬。絶対的な存在とまでは言えなくなったが、この馬が最有力候補であることに変わりはない。
というのも、本来なら最大のライバルとなるはずのダービー馬タスティエーラが、日本ダービー(G1)から菊花賞(G1)に直行する異例のローテーションだからだ。
ダービーどころか皐月賞から菊花賞のロングシュートを決めた二冠馬サクラスターオーのケースはあるが、それは1987年のことで36年も昔の話である。以降の菊花賞でも前走からの最長は、2018年のフィエールマンとなる訳だが、それでも7月1日のラジオNIKKEI賞であり、ダービー以来ほどの長さでもない。
日本競馬史上、三冠馬を除いてダービーと菊花賞の二冠を達成した例は、1943年のクリフジと1973年のタケホープの2頭しかいない。2頭とも皐月賞には出走しておらず、皐月賞2着のタスティエーラの経歴とは少々違いがある。
あくまで筆者の独断ではあるが、皐月賞とダービーで1着2着の着順が入れ替わった年として思い出されたのは、ジェニュインとタヤスツヨシが春の二冠を分け合った1995年のクラシックだ。
混戦模様のキーワードは「マヤノトップガン」を探せ?
皐月賞馬ジェニュインが天皇賞・秋(G1)へと向かったため、厳密にはこの年も同じとは言えないのだが、少なくともグレード制が導入された1984年以降の歴史において、同様の着順入れ替わりはなかったはずなので、大目に見てもらえれば幸い。
もう30年近く前の馬でありながら、『ウマ娘 プリティーダービー』(Cygames)の大ヒットにより、競馬初心者にも名を知られているマヤノトップガン。ナリタブライアンとマッチレースを演じた1996年の阪神大賞典(G2)は、G1でもないのに今なお伝説のレースとして語り継がれているほど熱い支持を受けている。
元JRA騎手の田原成貴氏とのコンビが印象的なマヤノトップガンだが、デビュー戦の手綱を武豊騎手が取っていたことは意外と知られていないかもしれない。
そのトップガンだが、初重賞勝ちが菊花賞でのG1初制覇だったように、敗戦を繰り返しながら力をつけていった晩成型でもあった。
初勝利を挙げるまでに4戦、待望の2勝目を挙げたのも、同日に日本ダービーが行われた5月28日。当時、世代の頂点に上り詰めたタヤスツヨシとは天地の差があったといえよう。
しかし、秋に大きな成長が見られなかったダービー馬とは対照的に、素質を開花させたマヤノトップガンは2着に敗れたとはいえ、神戸新聞杯と京都新聞杯(G2)でタヤスツヨシを立て続けに撃破。女傑ダンスパートナーの参戦でも話題となった淀の長距離でついに大輪の花を咲かせた。
その後の有馬記念(G1)でナリタブライアンを負かし、後に現れるサクラローレルやマーベラスサンデーとの三強対決など、大いに競馬界を盛り上げる存在となった。
現在では京都新聞杯の開催時期が春に移動し、G1に直行していきなり結果を出すことも珍しくなくなりつつあるが、やはり菊花賞で春のクラシックに参戦していなかった夏の上がり馬に期待したくなる気持ちは、昔も今も同じ。
皐月賞馬とダービー馬に不安要素が少なからずあるようなら、今年の菊花賞でもマヤノトップガンのような馬を探してみたくなる。そういう意味でも神戸新聞杯に出走を予定しているキャリア豊富な前走1着馬に注目をしてみたい。