スルーセブンシーズの大健闘に感動!世界に示した日本競馬のプレゼンス【凱旋門賞・現地観戦レポ】

スルーセブンシーズ 撮影:Ruriko.I

 10月1日、午後16時5分のパリロンシャン競馬場。賑やかな場内がひととき静まり、出走の鐘が響き渡った−。

 エトワール凱旋門から西に2kmほど。緑豊かなブローニュの森の奥にパリロンシャン競馬場はある。ここで秋なかばに開催される凱旋門賞(G1)は、言わずと知れた欧州中距離競走の総決算たる大レースだ。

 本年度の日本馬はスルーセブンシーズの単独出走となり、最多出走の昨年と比して孤独な挑戦となった。G1未勝利、2400m未経験、渡仏後は凱旋門賞に直行。このような実績やローテーション面の不安から、国内の下馬評は決して高いとは言えなかった。しかしながら、蓋を開けてみれば4着入線。フクムやコンティニュアスなど世界の強豪を下す、堂々たる走りだった。

 当地では日本人客も数多く見受けられ、「がんばれ!」の声援に胸が温かくなる。そのような人々の眼差しに応えるように、最終直線で見事に馬群を割ったスルーセブンシーズ。尾関知人調教師は涙を堪えながら、まるで愛娘を讃えるように彼女の奮闘を労った。個人的にもこの逆境の大勝負を糧として、さらなる活躍を見せてほしいと、心からそう思った。

 さて、パリロンシャン競馬場における興味深い点として、場内に満ちた国際色豊かな雰囲気というものがある。アラブ系の美しいヒジャブやトーブ、ヨーロッパ系の羽帽子や仕立の良いジャケット。ひしめくような各国の「一張羅」が、実に目に鮮やかだった。群衆は様々な言語を発し、最終直線では「Aufgeht’s!(ドイツ語;行け!)」「Allez!(フランス語:進め!)」等々、各国の絶叫が混じり合うのがなんとも面白い。

 そんな、やや混沌とした場内で目立っていたのが「日本」だ。上述のように多様な環境下ながら、基本的に場内看板は英・仏・日本語の3か国語表記。日本語を解する現地スタッフも見受けられ、迷っていると「大丈夫ですか」と声をかけてくれる。親日家の観客も多く、日本人と見るや「ディープ産駒は強い」「ルメール知ってる?」「競馬がきっかけで日本に興味を持った」「俺は柔道をやっているよ!」など、気軽に絡んでくれるオジサンもいた。

 日本は世界の競馬で生まれる利益のうち約40%を占めるとも言われ、1996年の有馬記念(G1)は世界最高の売上げ(約875億円)を叩き出したレースとしてギネスブックに掲載されたこともある。このような圧倒的な経済規模のみならず、昨今はサイアーラインでも欧州の競馬関係者やファンの視線を捉えて離さない。オーギュストロダンをはじめとする有力なディープ・ハーツ産駒の動向は、各国が注目するところだ。極東の競馬大国・日本の持つ存在感は、相当なものなのである。

 パリロンシャン競馬場を歩き回って感じたものは、かつては閉鎖的であったサラブレッドの生産が開放されて以来、世界で創り上げてきたコスモポリタンな現代競馬の姿。そして、それを構成する重要なメンバーである日本の存在感だった。スルーセブンシーズが力強い走りを披露したものの、今年も日本の「夢」は成就ならなかった。

 しかしながら、日本が競馬大国として世界に示すプレゼンスこそ、先人が築き上げたもっとも大きな「勝利」なのかもしれない。

さかた

英国在住の競馬好きアラサー女医。学生時代はWINS場内スタッフのアルバイトをしながら、ウオダス世代の火花散るレースに脳を焼かれた。好きな競馬場メシは「梅屋」のモツ煮込み。鉄火場であおるビールは人生の道標。

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