【菊花賞】武豊、横山典弘らが動いた中「動かなかった」C.ルメールの一呼吸。「普通は3000mなんか保たない」安藤勝己氏も驚愕するドゥレッツァの起死回生

ドゥレッツァ 撮影:Ruriko.I

 22日、京都競馬場で行われた三冠最終戦・菊花賞(G1)は、4番人気のドゥレッツァ(牡3歳、美浦・尾関知人厩舎)が勝利。ダービー馬タスティエーラ、皐月賞馬ソールオリエンスを2、3着に従える5連勝で、新時代の到来を高々と宣言した。

 昨年11月の初勝利から4連勝で菊花賞に駒を進めたドゥレッツァ。勢いではNo.1と言えたかもしれないが、これが重賞初挑戦だった。さらに距離経験は最長で2200m……クラシック戦線で揉まれてきた猛者相手の3000mは「経験」という点で圧倒的に不足していると言わざるを得なかった。

 しかし、そんなドゥレッツァの不安点を埋めたのが、近10年で菊花賞2勝、天皇賞・春(G1)3勝を誇る「長距離の鬼」C.ルメール騎手だ。

「1周目は静かな騎乗がしたかった」というルメール騎手のレースプランは、スタートしてコンマ数秒で崩れ去った。

「馬が元気で“フライングスタート”になった」と話した通り、スタートこそゆっくり出たドゥレッツァだったが、勢い良くハナへ。8枠17番の大外スタートだったために、馬の後ろに入れることができなかったルメール騎手は、この時点で「逃げた方がいい」と腹を括った。

 これまでのキャリアは、わずか5戦。基本的には中距離で番手の競馬をしてきたドゥレッツァである。初めて経験する長距離戦特有のゆったりとした流れに乗れないままハナに立ってしまった際には、誰もが悲惨な敗戦を予感したのではないだろうか。

 1周目の正面スタンド前を先頭で通過する姿は、まさに典型的な“テレビ馬”といった印象だった。

 勝負の分かれ目は向正面だった。最初の1000mを60.4秒で入ったドゥレッツァとルメール騎手だったが、次の1000mは64.1秒。なんとかマージンを稼ごうと、さらにペースを落としている。

 だが、そんな“小細工”は許さんとばかりにライバルたちが動いた。スタートで出遅れて後方からの競馬を余儀なくされたトップナイフと横山典弘騎手が一気にポジションを上げれば、サヴォーナの池添謙一騎手、ファントムシーフの武豊騎手、ソールオリエンスの横山武史騎手ら菊花賞勝利経験のある名手たちが呼応。ペースは一瞬で激流となり、先頭を走っていたルメール騎手とドゥレッツァも、その流れに飲み込まれた。

 今年、3年ぶりに京都に戻ってきたクラシック最終章。向正面半ばから「淀の下り」と呼ばれる3、4コーナーの下り坂を利用して一気にペースアップするのは、菊花賞でお馴染みの光景だ。各馬が一斉に動き出し「これぞ、淀の長距離戦」といった様相を呈してきた。

 だが、そんな中で冷静に動かなかったのが、ドゥレッツァとルメール騎手だった。

安藤勝己氏も驚愕するドゥレッツァの起死回生

 JRAの公式リザルトに記録されたドゥレッツァの各コーナーにおける通過順位は1→1→3→2。これだけを見れば、典型的な後続に飲み込まれた逃げ馬だろう。「普通はあれで3000mなんか保たない」レース後に自身のX(旧Twitter)でそう断言したのは、JRAで通算1111勝を誇り、2003年の菊花賞を勝った安藤勝己元騎手だ。

 しかし、結果的にはライバルたちが動いたところで、あえて動かなかったルメール騎手の判断が“常識”を覆す起死回生の反撃を呼び込んだ。3000mの最後の直線で全馬が苦しくなったところで唯一、解き放たれた矢のように伸びたのがドゥレッツァだ。

 終わってみれば、安藤氏も「最後の直線また突き放したもんな」と舌を巻く3馬身半差の圧勝劇。最後はタスティエーラ、ソールオリエンスらクラシックホースが後方から脚を伸ばしたが、まったく寄せ付けなかった。

C.ルメール騎手 撮影:Ruriko.I

「(向正面でレースが動いた時)外から他の馬のプレッシャーがありましたけど、ドゥレッツァは全然怒ってなかった。(馬群に飲み込まれて)3番手になって、ちょっと休憩できました。息が入ったし、リラックスできた。直線では(溜めた分)手応えが良かった、また加速してくれました」

 レース後、そう勝因を語ったルメール騎手は、これで歴代2位となる菊花賞3勝目。まさに「長距離戦は騎手の腕」という格言を体現している。今後は菊花賞馬ドゥレッツァと共に、さらに連勝を伸ばしていくのだろうか。

「もちろん、3歳以外にも強い馬がいるですね(笑)」

 だが、そんなルメール騎手は、現役最強馬イクイノックスの主戦騎手でもある。この世界No.1ホースは今後のドゥレッツァにとって、この上なく高い壁となるはずだ。

「でもドゥレッツァは、まだ強くなれると思います。2400m以上でもトップレベルで走れる馬です」

 勝利騎手インタビューでそう期待を語ったルメール騎手にとって、この菊花賞馬は新たな相棒となるのか、それとも手ごわい敵となるのか――。今後は「鞍上問題」が新たな焦点になるかもしれない。

GJ 編集部

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