M.デムーロ「出られなくなって申し訳ない」運命の選択から約半年…怪物候補「本物証明」のマイルCS(G1)へ渾身の一番時計
イクイノックス、リバティアイランドなど、有力馬が順当に強さを見せている今年の秋G1。ここまでは川田将雅騎手とC.ルメール騎手の2人のどちらかが勝ち続けるという堅い決着が続いている。
だが、19日に京都競馬場で行われる秋のマイル王決定戦・マイルCS(G1)は、春のマイル王ソングラインが米ブリーダーズCに挑戦したこともあって、確固たる本命不在の混戦模様になりそうだ。
そんな中、先週行われた1週前追い切りで大きな輝きを放ったのが、3歳馬のエエヤン(牡3歳、美浦・伊藤大士厩舎)だ。
美浦の坂路で併せ馬を行ったエエヤンが記録した4ハロン51.8秒は、この日の一番時計タイ。併せ馬を軽く置き去りにしたラスト1ハロンも全体3位タイと、その勢いは最後まで衰えなかった。
この走りには伊藤大調教師も「休み明けを1度使って可動域が広がった」と手応え。前走の毎日王冠(G2)は8着に敗れているが「伸びが全然違う」と上積みの大きさを強調している。
また騎乗するM.デムーロ騎手にとっても、エエヤンには特別な思いがあるはずだ。
「化け物?」で果たしたい春のリベンジ!
「化け物かも……」
今年2月に行われた3歳1勝クラスで初めてエエヤンとコンビを組んだデムーロ騎手は、レース後に思わずそう漏らした。それもそのはず、2番手からレースを進めたエエヤンは最後の直線で先頭に立つと、あとは独壇場。デムーロ騎手の「ボクは何もしませんでした」との言葉通り、ほぼ追われることもなく、ノーステッキのままゴールしていたからだ。
その言葉を証明したのが、次走のニュージーランドT(G2)だ。最後の直線で2歳王者ドルチェモアを交わして先頭に躍り出たエエヤンは後続を完封。1馬身1/4差の2着ウンブライル、3着シャンパンカラーが後のNHKマイルC(G1)で2、1着なのだから、この馬が世代トップクラスのマイラーであることは間違いないだろう。
だが、迎えた本番のNHKマイルCで、デムーロ騎手とエエヤンの運命は大きくこじれることになる。
この時、デムーロ騎手には2つの選択肢があった。トライアルを制したエエヤンとのコンビ継続か、1月のジュニアC(L)を勝ったクルゼイロドスルに騎乗するかだ。結果的にデムーロ騎手は後者を選択。だが、レース前日になってクルゼイロドスルが熱発でまさかの出走回避……。
これには管理する高橋義忠調教師も「他に乗り馬がいないならまだしも、こちらを選んでくれたのですから……。レースに出られなくなって申し訳ない気持ちです」とデムーロ騎手を気遣うコメントを残している。また、戸崎圭太騎手に乗り替わったエエヤンも、最後の直線で行き場を失う痛恨の不利。不完全燃焼といえる9着に終わってしまった。
デムーロ騎手にとって、エエヤンはそんな苦い思い出がある存在だ。
「先約を優先する形だったとはいえ、結果的にデムーロ騎手はエエヤンを選ばなかったわけですから、ここでコンビ解散となるケースは珍しくありません。ただ、エエヤンの伊藤大調教師は、デムーロ騎手が栗東から美浦へ来るたびに追い切りを任せるなど高く評価している人物。このコンビ継続には調教師の意向もあったでしょうね。
先日のみやこS(G3)をセラフィックコールで勝った際にも、あえて『ずっと乗せてほしい』と言っていましたが、最近は有力馬を降ろされることも珍しくないデムーロ騎手にとってもエエヤン続投には期するものがあると思いますよ」(競馬記者)
今年のデムーロ騎手は、とにかくツキがない印象だ。直前で出走取消となったNHKマイルCだけでなく、先月の天皇賞・秋(G1)では有力馬スターズオンアースの騎乗が決まってから、まさかの回避……。一縷の望みが懸かったジャパンC(G1)では、先日W.ビュイック騎手との新コンビが発表されたばかりだ。
「G1、去年勝てなかったから今年は頑張ります」
NHKマイルCの共同会見でそう誓ったデムーロ騎手だが、今年もまだG1には手が届いていない。復活を遂げるG1制覇はあの時、コンビを組めなかった相棒エエヤンで果たす――。秋G1“独占”が続くルメール騎手、川田騎手に割って入れるのは、やはりこの男に違いない。