ディープインパクト×ブラックタイドの「インブリード」は? イクイノックス引退などで今後注目が高まりそうな「全きょうだいクロス」
日本、いや世界最強馬イクイノックスの電撃引退に揺れた今週の競馬界。シルクレーシングの米本昌史代表が会見を開いて引退発表を行うなど異例の処置が取られたことも、その影響の大きさを表している。
米本代表曰く、最終的に出否が思案されていた有馬記念(G1)を見送り、そのまま引退となったのは、激走を重ねた天皇賞・秋(G1)、ジャパンC(G1)の疲れが大きかったとのこと。
ただ、そこにはこれ以上イクイノックスの「種牡馬」としての価値に大きな上積みがないこともあったはずだ。
気になる今後のイクイノックスだが、史上最高クラスの待遇を以って種牡馬生活をスタートさせるであろうことは自明の理だ。初年度の種付料の目安としては昨年に、ディープインパクトの最高傑作として種牡馬入りしたコントレイルの1200万円が挙げられる。
このイクイノックスの種牡馬入りを受け、今後の生産界でさらに大きなシェアを持つことになるのが“キタサンブラック系”だ。
すでに来年度の種付料が、今年度の1000万円から倍増の2000万円になることが発表されているキタサンブラック。この大幅な価格アップによって、来年はエピファネイアにかわるNo.1種牡馬として種付けシーズンを迎える見込みだ。
そこに超大型ルーキーのイクイノックスが加わり、さらには今年の皐月賞(G1)を勝ったソールオリエンスも将来的には種牡馬入り濃厚の存在だ。“キタサンブラック系”と呼ぶにはまだまだ早いが、今後10年で一気にシェアを広げる可能性は極めて高いといえるだろう。
その一方で現在、断トツのシェアを誇っているのはディープインパクト系だ。
先述したコントレイルをはじめ、すでに実績十分のキズナ。レーベンスティール(セントライト記念)という大物が出てきたリアルスティールや、重賞2勝のサトノグランツを出したサトノダイヤモンドなど、これから楽しみな種牡馬も多い。名を挙げれば枚挙に暇がなく、すでに後継種牡馬が多過ぎる問題が取り沙汰されているほどだ。
今後注目が高まりそうな「全きょうだいクロス」
この結果、今後の激増が予想されるのが、キタサンブラックの父ブラックタイドとディープインパクトによる「全きょうだいクロス」である。
読者の中にも「クロス=インブリード」は知っているが、「全きょうだいクロス」については、あまり耳馴染みがない人もいるのではないだろうか。まだ日本の競馬ファンの間に定着していないことは、この「全きょうだいクロス」という、ややわかり辛いワードからもうかがえる。(JRAの競馬用語辞典に全きょうだいクロスがないように、これといった名称が定まっていないのだ)
JRAの競馬用語辞典にはクロス=インブリードについて「血統表で5代前までに【同一の祖先】を持っているような配合のこと」と記載されている。その上で「全きょうだいクロス」とは、【同一の祖先】ではなく、【同一の血統を持った祖先】のクロスを指す。
ブラックタイドとディープインパクトは同一の馬ではないが、同一の血統を持った全兄弟になる。つまり、この2頭を5代前までに持っている馬同士が配合された場合、「全きょうだいクロス」が発生するというわけだ。
ただ実はこの「全きょうだいクロス」は、すでに日本の競馬にも大きな影響を与えている。
例えば、1999年の凱旋門賞(仏G1)で2着するなど、今や『ウマ娘 プリティーダービー』(Cygames)のキャラクターとしても有名なエルコンドルパサーは、その実績だけでなく、配合面でも大きく注目された名馬だが、「奇跡の血量」と言われるノーザンダンサーの4×3のクロスだけでなく、SpecialとLisadellという2頭の牝馬による4×4×3の「全きょうだいクロス」が最大の特徴と言われている。
また、アーモンドアイを輩出したロードカナロア(Secretariat×Syrian Sea)や、ディープインパクト&ブラックタイド兄弟が持つ大種牡馬リファール(Pharos×Fairway)も「全きょうだいクロス」の持ち主である。
通常のクロスと比較して圧倒的にレアな「全きょうだいクロス」だが、今後はブラックタイド×ディープインパクトを筆頭に、日本でも目にする機会は確実に増えるだろう。