J.モレイラ「不完全燃焼」はC.ルメールの再現VTR!? 頭で理解していても複雑なファン心理…感動的勝利の裏で「後味の悪さ」残った1番人気馬の連敗
人気を集めたマスクトディーヴァ、ナミュールが二強を形成した今年のヴィクトリアマイル(G1)を制したのは、14番人気テンハッピーローズ。単勝オッズが208.6倍の超大穴が優勝したこともあり、2着に4番人気、3着に1番人気の入った3連単の払戻も91万6640円の大波乱となった。
また、JRA・G1における単勝オッズとしてもテンハッピーローズは、サンドピアリスの4万3060円(1989年エリザベス女王杯)、コパノリッキーの2万7210円(2014年フェブラリーS)、ダイタクヤマトの2万5750円(2000年スプリンターズS)に次ぐ歴代4位の記録としても注目が集まった。
家族に支えられた関東の苦労人が手にした感動のG1勝利
デビュー21年目にして初のG1タイトルを手にした津村明秀騎手の感動的な勝利に、ネットの掲示板やSNSなどは関東の苦労人の快挙を祝福する声で溢れた。
津村騎手自身も「G1レースはもう勝てないかも」「でも諦めてはいけない」と日々研鑽を積み重ねてきた努力が実を結んだ結果、ついに手に入れた悲願の勲章だ。ここまで支えてくれた家族への感謝の気持ちを述べるとともに、「これで終わりではありません。これからも頑張ります」と2勝目3勝目を視野に入れるコメントで気を引き締めていた。
同期の川田将雅騎手がリーディングジョッキーを獲得するまで成長し、藤岡佑介騎手にもG1勝ちで先を越された。デビュー前から騎乗技術でトップ級の評価を受けていた実力の持ち主だけに、この勝利をきっかけにさらなるブレイクもありそうだ。
その一方で、ヴィクトリアマイルにおける最後の直線の攻防を目撃した際、1週前に行われたNHKマイルC(G1)の再現のように思えたのは気のせいだろうか。
このときは勝負どころで進路をなくした1番人気アスコリピチェーノが内側へ斜行。この件について、鞍上のC.ルメール騎手に対し過怠金3万円の処分。そしてヴィクトリアマイルでは、同じく最後の直線で進路をなくしたマスクトディーヴァのJ.モレイラ騎手に対し、十分な間隔がないのに先行馬を追い抜こうとしたとして戒告処分が下された。
つまり2週続けて戦前に二強ムードの下馬評だったG1で、1番人気馬に騎乗していた外国人騎手が不完全燃焼に終わるという結果になったのである。もちろん見事勝利を掴んだ騎手に“ケチがつく”訳でもなく、その騎乗は称賛されるべきだが、手放しで喜べなかったファンがいたことも事実だ。
これも競馬、されど競馬……
というのも、結果的に加害者とされたアスコリピチェーノとマスクトディーヴァも本来の実力通りに走れない状況に追いやられていたからだ。レースで騎乗する騎手たちが命懸けで臨んでいるとはいえ、大半のファンは各馬が不利を受けることのない競馬を見たかっただろう。
「アスコリピチェーノもマスクトディーヴァもスムーズな競馬ができていれば、勝てるだけの能力を持っていたことは間違いないでしょう。ですが、道中で外の馬にずっと壁を作られる状況に陥ったため、ルメール騎手もモレイラ騎手も他にやりようがなかったというのが実際のところだったかもしれませんね。
彼らを外から蓋をする格好で封じ込んだ川田騎手、鮫島克駿騎手も自身がどうやったら勝てるかを思案しての作戦だったと思います。実際、川田騎手は自身のコラムで意図的にルメール騎手の選択肢を減らす騎乗を心掛けたと振り返っていましたし、鮫島駿騎手もまた人気馬が上がっていくときにすぐ横でしっかりとマークしたとコメントしていました」(競馬記者)
勝負の世界という意味では、そういった事態に直面する前に対処できなかったルメール騎手、モレイラ騎手の責任でもあるのだが、アスコリピチェーノやマスクトディーヴァの馬券を購入していたファンの心理としては「これも競馬」という一言で済まされると、少々複雑な感情も生まれるだろう。
もっとも、強い馬が毎回勝つとは限らないのも日常茶飯事である。タラレバの話をやったところで意味がないことも重々承知してもいる。ただ純粋に強い馬が不利を受けることなく能力を発揮するレースが見たかったというのも本音。そういう意味でも今週末のオークス(G1)では、全人馬が何事もなく能力を発揮するレースとなることに期待したい。