「わざと出遅れて」圧巻デビューVからよもやのジリ貧…デアリングタクト世代“元怪物”が同厩アートハウス躍進の陰でひっそり引退
先週土曜日に中京競馬場で行われた牝馬限定重賞の愛知杯(G3)。最大の注目を集めたのは、川田将雅騎手が手綱を取った1番人気のアートハウス(牝4歳、栗東・中内田充正厩舎)だった。
どちらも上位人気に推された昨年のオークス(G1)と秋華賞(G1)では期待を裏切る形となり、真価が問われた今年初戦。アートハウスは鞍上の好騎乗も手伝って、昨秋のローズS(G2)に続く重賞2勝目を飾った。
同馬を管理するのは2021年にリーディングトレーナーに輝き、今年も首位(15日終了時点)に立っている伸び盛りの中内田調教師。昨年12月に44歳を迎えたばかりだが、すでにG1を5勝している実力派である。厩舎の最大の特徴として挙げられるのが、2歳戦にめっぽう強いことだろう。G1・5勝のうち実に4勝が2歳戦という事実がそれを物語っている。
その一方で、3歳になってから伸び悩む管理馬が多く、一部のファンから“早熟馬揃いの厩舎”のレッテルを貼られることもある。
“元怪物”が同厩アートハウス躍進の陰でひっそり引退
そんな有り難くない風評に“一役買った”1頭が先週の愛知杯に出走し、最下位の15着に敗れていた。結果的にこれが引退レースとなったリアアメリア(牝6歳、栗東・中内田充正厩舎)である。
同馬がデビューしたのは、今から3年半前。阪神の2歳新馬戦で圧倒的1番人気に支持されると、レース前から勝利を確信していたのか、川田騎手は将来を見据えて「わざと出遅れた」という噂もあったほどだ。
実際は「後ろからの競馬を練習させたい」という意図があったものだが、リアアメリアは鞍上の期待通り、後方待機で末脚を温存すると、持ったまま8馬身差をつけて圧勝。さらに2戦目のアルテミスS(G3)も大外一気の末脚で勝利し、この時点で「牝馬クラシックの最有力候補」「怪物」などと騒がれた。
しかし、3戦目の阪神JF(G1)で歯車が狂い始める。単勝1.8倍の断然人気に推された一戦で、見せ場を作れずレシステンシアの6着に敗れてしまう。
さらにぶっつけで臨んだ翌春の桜花賞(G1)は10着。続くオークスで4着に好走し、3歳秋初戦のローズSで重賞2勝目を挙げ、完全復活を予感させたものの秋華賞は2番人気で13着に敗れた。
「残念ながら、最後に勝利したのはローズSになってしまいましたね。秋華賞から2年以上にわたって重賞戦線で走り続けましたが、2歳時に見せたポテンシャルを発揮することはありませんでした。秋華賞を皮切りに11連敗を喫し、この間は馬券圏内がなく、掲示板も1度きり。
デビュー2連勝を飾った時は、牝馬三冠を意識させるほどの逸材でしたが……。典型的な早熟タイプだったのかもしれませんね」(競馬誌ライター)
僚馬アートハウスが貫禄勝ちを収めた一戦で、デアリングタクト世代の“元怪物”はひっそりとターフに別れを告げた。今後は故郷のノーザンファームに戻り、繁殖牝馬として子供たちにG1制覇の夢を託す。