ダートでは過去に惨敗した経験のみ…「世界のYAHAGI」が歴史的快挙! 「13億円」ゲットのパンサラッサはなぜサウジCを勝てたのか?

パンサラッサ 撮影:Ruriko.I

 現地時間25日にサウジアラビアのキングアブドゥルアジーズ競馬場で行われたサウジC(G1)は、先手を取ったパンサラッサが逃げ切って優勝。1着賞金が世界最高の1000万米ドル(約13億6000万円)として知られるダート最高峰の舞台で栄冠を勝ち取った。

 本競走は2020年2月に創設と歴史は浅いが、世界中からダートの超一流馬が参戦する超ハイレベルのレースとして認識されつつある。それだけに芝が主流の日本馬が苦戦しても不思議ではないと考えられたのも無理はない。

 2020年にはゴールドドリーム(6着)とクリソベリル(7着)、21年はチュウワウィザード(9着)、昨年はマルシュロレーヌ(6着)とテーオーケインズ(8着)らが出走するも勝ち負けには程遠い結果に終わっていた。

 そんな夢の舞台に今年は過去最多の6頭が参戦。適性に疑問の残る馬ばかりと評した海外メディアもあったが、優勝したパンサラッサだけでなく3着にカフェファラオ、4着ジオグリフ、そして5着にもクラウンプライドが入る大番狂わせを起こした。掲示板に載った5頭中4頭が日本馬だったのだから、これを歴史的な快挙と評することに議論の余地はないだろう。

 昨年と一昨年のフェブラリーS(G1)を連覇したカフェファラオや昨年のチャンピオンズC(G1)で2着のクラウンプライドが好走。既に日本のダートで十分な実績を残している馬たちの善戦は素晴らしいのだが、芝から転戦したパンサラッサやジオグリフもまた、ファンの想像を大きく上回る結果だったといえる。

 ジオグリフについては芝ダート兼用のドレフォン産駒ということもあり、血統的な背景からもある程度適性を見込めたが、パンサラッサの参戦には不可解にも映った。何しろダートの経験は、3年前に師走S(3勝クラス)で16頭立ての11着惨敗があるのみ。現在の逃げるスタイルで素質を開花させたとはいえ、芝に比してダートはこれといった実績がないに等しかった。

パンサラッサはなぜサウジCを勝てたのか?

 1度きりの惨敗とはいえ、本馬が初めてG1タイトルを手にしたのは、昨年のドバイターフ(G1・同着ロードノース)であり、こちらは芝1800mのレースに海外遠征したものである。サウジカップデーで芝のレースに使う選択肢も当然ながらあったはずだ。にもかかわらず、あえて条件的に苦戦が予想されるサウジCを選択し、しかも優勝するという最高の結果を残した矢作芳人調教師の慧眼には恐れ入る。

「芝のレースはネオムターフC(G3)がありましたが、こちらは距離が2100m。パンサラッサは昨秋の天皇賞・秋(G1)で惜敗していますし、ゴール前でのもうひと踏ん張りを思えば、距離を延長するよりは短縮したいタイプでした。

そう考えるとダートだったとしても、ベスト距離の1800mで行われるサウジCの魅力が上回るという結論だったのかもしれませんね。

それに日本のダートと海外のダートは質が違うとも言われていますから、国内のダートで惨敗したからといって適性がないと決めつけなかったことも矢作先生の英断だったと思います」(競馬記者)

 事実、2011年にドバイワールドC(G1)を初めて日本馬が制した際の優勝馬は、芝G1の皐月賞(G1)と有馬記念(G1)を勝っていたヴィクトワールピサだった。厳密にはダートではなくオールウェザーで開催されたものの、同2着トランセンドは国内のダートで当時の最強馬。そんな相手を初ダートのヴィクトワールピサがねじ伏せたことに驚きの声が上がったのも無理はない。

 過去のサウジCを国内ダートでG1を勝った馬が敗れ、今年のサウジCもまたカフェファラオやジュンライトボルトといったG1馬を芝馬であるパンサラッサが破っている。それはつまり、芝でG1を勝つくらいの実力の持ち主なら、サウジやドバイのダートで通用する下地があると考えてもおかしくはない。

 勿論、馬の適性などを試行錯誤した「世界のYAHAGI」は、既にアメリカや欧州で結果を出しているノウハウを生かしての優勝だった訳だが、来年のサウジCには芝G1を制した有力馬の参戦がさらに増える可能性も出てきた。いずれにしても日本の競馬関係者すべてに大きな夢と希望を与えてくれた今年のサウジCだったのではないか。

高城陽

大手新聞社勤務を経て、競馬雑誌に寄稿するなどフリーで活動。縁あって編集部所属のライターに。週末だけを楽しみに生きている競馬優先主義。好きな馬は1992年の二冠馬ミホノブルボン。馬券は単複派で人気薄の逃げ馬から穴馬券を狙うのが好き。脚を余して負けるよりは直線で「そのまま!」と叫びたい。

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