イクイノックス、ドウデュースすら「見向きもしない」大阪杯の価値、賞金増額もまるで焼け石に水…「事実上G2扱い」フェブラリーSの悪夢再び?
3月も後半に差し掛かり、春のG1シーズン開幕も近づきつつある今日この頃。来週にはスプリント王決定戦・高松宮記念(G1)の開催を控えており、楽しみにしているファンも多いだろう。
同レースは26日に行われるのだが、その前日の25日にアラブ首長国連邦ドバイのメイダン競馬場で行われるドバイワールドカップデーもまた、多くのファンから注目を集めるはずだ。
世界トップクラスの賞金でも知られるドリームレースの数々に、今年も多くの日本馬が参戦を予定している。その顔触れも昨年の年度代表馬イクイノックスをはじめ、ダービー馬のドウデュースやシャフリヤールなど錚々たる顔ぶれ。世界トップクラスのライバルと繰り広げられる熱い戦いは、日本の高松宮記念以上の注目を集めそうだ。
勿論、ドバイで行われる大一番が非常に楽しみなレースであることに変わりはないのだが、心配なのは同時期に開催される大阪杯(G1)に出走するメンバーの層の薄さである。
「事実上G2扱い」フェブラリーSの悪夢再び?
現在出走が濃厚な馬でG1勝利があるのは、スターズオンアース、キラーアビリティ、ジェラルディーナのわずか3頭。G1馬の数だけであれば、先日の中山記念(G2)と同じという有様では、あまりにも寂しい。もしメンバーの名前だけ知らされたなら、G2といわれてもそれほど違和感はなかったかもしれない。
なぜそうなってしまったのかというと答えは一目瞭然。ほぼ同時期のドバイに参戦する有力馬が多過ぎて、国内がまるでもぬけの殻のようになってしまったからだ。以下は、ドバイで出走を予定している馬の詳細。※海外レースでの賞金は年始にフランスギャロが更新するレートでJRAが換算するため、今年は1ドル=131.865円。
■ゴドルフィンマイル(G2・ダート1600m)約7648万1700円
ウインカーネリアン(牡6、美浦・鹿戸雄一厩舎)
バスラットレオン(牡5、栗東・矢作芳人厩舎)
ラウダシオン(牡6、栗東・斉藤崇史厩舎)
■UAEダービー(G2・ダート1900m)約7648万1700円
ゴライコウ(牡3、栗東・新谷功一厩舎)
コンティノアール(牡3、栗東・矢作芳人厩舎)
デルマソトガケ(牡3、栗東・音無秀孝厩舎)
ドゥラエレーデ(牡3、栗東・池添学厩舎)
ペリエール(牡3、美浦・黒岩陽一厩舎)
■ドバイゴールデンシャヒーン(G1・ダート1200m)約1億5296万3400円
ジャスティン(牡7、栗東・矢作芳人厩舎)
リメイク(牡4、栗東・新谷功一厩舎)
レッドルゼル(牡7、栗東・安田隆行厩舎)
レモンポップ(牡5、美浦・田中博康厩舎)
■ドバイターフ(G1・芝1800m)約3億8240万8500円
ヴァンドギャルド(牡7、栗東・藤原英昭厩舎)
セリフォス(牡4、栗東・中内田充正厩舎)
ダノンベルーガ(牡4、美浦・堀宣行厩舎)
ドウデュース(牡4、栗東・友道康夫厩舎)
■ドバイシーマクラシック(G1・芝2410m)約4億5889万200円
イクイノックス(牡4、美浦・木村哲也厩舎)
ウインマリリン(牝6、美浦・手塚貴久厩舎)
シャフリヤール(牡5、栗東・藤原英昭厩舎)
■ドバイワールドC(G1・ダート2000m)約9億1778万400円
ヴェラアズール(牡6、栗東・渡辺薫彦厩舎)
ウシュバテソーロ(牡6、美浦・高木登厩舎)
カフェファラオ(牡6、美浦・堀宣行厩舎)
クラウンプライド(牡4、栗東・新谷功一厩舎)
ジオグリフ(牡4、美浦・木村哲也厩舎)
ジュンライトボルト(牡6、栗東・友道康夫厩舎)
テーオーケインズ(牡6、栗東・高柳大輔厩舎)
パンサラッサ(牡6、栗東・矢作芳人厩舎)
(JRA発表)
ご覧の通り、メンバーにおいてもなかなかの充実ぶり。中でも特に注目したいのは、芝の中距離条件となるドバイターフとドバイシーマクラシック。1着賞金2億円の大阪杯と路線が被るメンバーながら、顕著な格差が生じている。昨年のジャパンC(G1)を制したヴェラアズールにしても、大阪杯ではなくドバイワールドCを選択しているが、9億円を超える1着賞金と比較すれば、挑戦するだけの価値はあるといえる。
そして、こういった事例はついこの前にも発生していた。
先月末に行われたサウジカップデーの目玉でもあるサウジC(G1)で日本馬のパンサラッサが大金星を挙げたのだが、本レースの1着賞金1000万ドルは、日本円にして約13億円という超高額だったことでも話題となった。
ちなみに同じくダートのG1であるフェブラリーSのそれは1億2000万円。10回勝っても見劣りする上に、パンサラッサに騎乗した吉田豊騎手は、1億3000万円を獲得したとも言われている(日本競馬の5%に対し、サウジアラビアでの賞金配分は10%)。つまり、騎手ひとりでフェブラリーSの1着賞金全体を上回る額だった訳だ。
何しろトップクラスの馬が見向きもせずにサウジを選択したのだから、同時期に国内G1を開催する意味があるのかという議論も避けられない。こういった状況を踏まえて、ネットの掲示板やSNSなどで一部のファンからフェブラリーSの存在意義を問う声が出たのも当然だろう。上半期のダート王を決めるレースながら、もはや「G2」といわれても仕方がなかったのが現状だ。
勿論、4月2日に開催される大阪杯においても他人事ではない。
2017年にそれまでのG2からG1へと昇格した大阪杯だが、昇格初年度こそキタサンブラックが優勝したものの、その後の優勝馬の顔触れは、現役最強クラスかと問われれば疑問符がつく面々。
高額な賞金や招待レースということも相まって、トップクラスの実力馬は3月下旬のドバイや、4月下旬に香港を選択するケースが目立つ。今年も前哨戦の金鯱賞(G2)を勝ったプログノーシスが、香港のクイーンエリザベス2世Cに登録したニュースが先日流れたばかりだ。
JRAとしても賞金の増額などで、国際競争力の強化を念頭に苦心しているようだが、現実は「焼け石に水」に近い状況となっている。G1昇格からまだ6年にもかかわらず、大阪杯においてもフェブラリーS同様、事実上の「G2降格」状態という悪夢が再現されそうなことは非常に残念である。