「絶体絶命」の高松宮記念(G1)に豪華メンバー!? 中東のオイルマネーに大苦戦の大阪杯・フェブラリーSと「何」が違うのか
先日、当サイトで『イクイノックス、ドウデュースすら「見向きもしない」大阪杯の価値、賞金増額もまるで焼け石に水…「事実上G2扱い」フェブラリーSの悪夢再び?』という記事が掲載され、幸いにも大きな反響があった。
詳細は記事の方をご一読いただきたいが、要約すると日本から27頭もの有力馬が遠征するドバイワールドカップデーの影響で、大阪杯(G1)の出走メンバーが寂しいものになりそうだというものだ。
記事にもあるように昨年の二冠馬スターズオンアースと、エリザベス女王杯(G1)の覇者ジェラルディーナの女王対決が予想される今年の大阪杯は、それなりに楽しみなレースになりそうだ。
だが、例えばドバイターフ(G1)に出走予定のドウデュースや、ドバイシーマクラシック(G1)に登録があるイクイノックスが大阪杯に出走すれば、ほぼ確実に1番人気になると思われるだけに、やはり見劣りすると言わざるを得ない。
これはサウジCデーの影響をモロに受けた2月のフェブラリーS(G1)にも言えることだが、もともとの賞金額に大きな差がある上に最近の円高事情も相まって、関係者にとっても国内のレースに出走するメリットが小さいためだ。
そういった事情もあって、施行条件だけでなく開催時期も大きな見直しが迫られているフェブラリーSと大阪杯。今年中にも主催のJRAから、何らかの重大な発表があっても驚けない状況だ。
だが、そんな“圧倒的逆風”の中で、何故か「無傷」と言っていいG1レースが存在する。春のスプリント王決定戦・高松宮記念(G1)だ。
「絶体絶命」の高松宮記念(G1)に豪華メンバー!?
前述したフェブラリーSが2月19日に対して、サウジCデーが同25日。大阪杯が4月2日に対して、ドバイワールドカップデーが3月25日。確かに影響を与えそうな日程だが、高松宮記念はドバイワールドカップデーの翌日開催だ。
合計9つの国際重賞が開催されるドバイワールドカップデーには、アルクオーツスプリント(G1)というレースも組み込まれており、直線レースながら条件は高松宮記念と同じ芝1200mとモロ被りである。フェブラリーSの1600mとサウジCの1800m、大阪杯の2000mとドバイターフの1800m・ドバイシーマクラシックの2410mと比較しても、さらに厳しいと言わざるを得ない。
つまり今年のフェブラリーSや大阪杯の状況を鑑みれば、高松宮記念こそ最も大きな“被害”を受けるはずである。一部の競馬ファンから「まるでG2」と揶揄されている両G1だが、高松宮記念は「まるでG3」と言われるほど出走馬を骨抜きにされてもおかしくないのだ。
しかし、繰り返しになるが高松宮記念は逆風どころか、まったくの無風状態だ。
今年の出走予定メンバーを見渡すと、昨年のスプリンターズS(G1)の覇者ジャンダルム、4着馬ダイアトニックこそ引退しているが、2着ウインマーベル、3着ナランフレグ、5着ナムラクレア、さらには1番人気だったメイケイエールらが挙って登録。
そこに前哨戦の阪急杯(G3)を勝ったアグリや京阪杯(G3)を勝ったトウシンマカオ、オーシャンS(G3)の覇者ヴェントヴォーチェらも合流し、さらには一昨年のスプリンターズSの覇者ピクシーナイトまで復帰するという。
フェブラリーSや大阪杯には「あの馬がいれば」という有力馬が多数いたが、今年の高松宮記念はそういった馬を探す方が困難というほど役者がそろっている。群雄割拠のスプリント路線だが、出走メンバーの充実度はこれ以上ないと言っても過言ではないはずだ。
大阪杯・フェブラリーSと「何」が違うのか
何故、高松宮記念だけが安泰なのか。とりあえず2つの理由が考えられそうだ。
1つは賞金額だ。いわゆる中東のオイルマネーに後押しされるサウジCは1着賞金が約13億円。今年は日本のパンサラッサが優勝したことで話題になったが、優勝ジョッキーの吉田豊騎手がゲットした約1億3000万円(10%)でさえ、フェブラリーSの1着賞金1億2000万円よりも上である。
また1着賞金が2億円の大阪杯も、ドバイターフの約3億8240万8500円やドバイシーマクラシックの約4億5889万200円と比較すれば見劣ると言わざるを得ない。
一方、アルクオーツスプリントは格付けこそG1だが、1着賞金は約1億1472万2600円と、実は高松宮記念の1億7000万円に後れを取っている。世の中、金がすべてではないが、有力スプリンターを抱える各陣営がドバイへ積極的に遠征しない理由の1つにはなっているはずだ。
もう1つは、日本の芝スプリント路線のレベルの低さだ。冒頭で触れた通り、今年のドバイワールドカップデーには27頭もの日本馬が遠征を予定しているが、その大きな理由は「勝つ見込みがあるから」に他ならない。仮に敗れても上位争いをしていれば高額賞金をゲットできるのだから、その恩恵は小さくない。
ちなみに昨年はゴドルフィンマイル、ドバイゴールドカップ、UAEダービー(いずれもG2)、さらにはドバイターフ、ドバイシーマクラシック(いずれもG1)で日本馬が勝利。毎年のように活躍馬が出ているだけに、日本の各陣営が意欲十分になるのも頷ける。
その一方、アルクオーツスプリントは、これまで日本馬4頭が挑戦して12着、12着、9着、12着とまったく話になっていない。毎年12月の香港国際競走に組み込まれている香港スプリント(G1)にも同様のことが言えるが、他のカテゴリーと比較して芝1200mのレースでは苦戦が続いている。
「賞金が低い上に、遠征しても勝てない」となれば陣営に挑戦する理由はない。単純明快な話だが、高松宮記念が安泰なのは「日本のスプリンターのレベルの低さのおかげ」というのは、なんとも皮肉な話である。