武豊「1着に飢えて」JRAから戒告…福永祐一「持論」自ら実証の“勝ち逃げ”引退も、大先輩が痛恨の被害
18日、中京競馬場で行われたファルコンS(G3)は、8番人気のタマモブラックタイが重賞初制覇。1980年の桜花賞2着馬タマモコトブキを5代母に持つ伝統の“タマモ血統”の末裔が、一族に嬉しい重賞タイトルをもたらした。
「上手く内から抜け出せましたし、よく凌いでくれました」
レース後、幸英明騎手がそう振り返った通り、ハナ差の勝負を分けたのは最後の直線で思い切って最内へ突っ込んだ鞍上の好判断だった。1400mの重賞を勝ったが「今なら(マイルでも)やれると思います」と5月のNHKマイルC(G1)を見据える。この日を含め雨で馬場が荒れれば4戦3勝2着1回という重馬場の鬼。本番でも一雨来れば、大きなチャンスになりそうだ。
その一方で、痛恨の2着に終わったのが、1番人気に支持されたカルロヴェローチェ(牡3歳、栗東・須貝尚介厩舎)と武豊騎手だった。
「今週は1着に飢えた騎乗を心がけます」
自身にとって54回目の誕生日となった15日、公式ホームページ上でそう誓いを立てていた武豊騎手は4日のチューリップ賞(G2)で鮮やかに逃げ切ってから17連敗(15日当時)……。2着が6回もあっただけに「2着で半笑いしているわけにはいきません」と並々ならぬ決意で挑んだのがこの日だった。
その後、この日の弥富特別(2勝クラス)を勝ってようやく留飲を下げたものの、1番人気に支持されたファルコンSでハナ差の2着。それも最後の直線で行き場を失う、武豊騎手らしからぬ不完全燃焼の内容だった。
武豊騎手「1着に飢えて」JRAから戒告…
「最後の直線では勝ち馬と同じような位置にいたんですけどね。武豊騎手も『直線でさばくのに手間取った。その間に勝ち馬に行かれた』と悔しがっていましたよ。
先に幸騎手のタマモブラックタイが内に潜り込んだので外に行こうとしたのですが、テラステラの坂井瑠星騎手も譲らなかったので再び内へ切り返すことに。この時点で完全に前が塞がってしまったので、最後は強引に進路をこじ開けて2着まで追い上げました。着差が着差(ハナ差)だっただけに『スムーズなら勝っていた』と言わざるを得ない残念なレースになってしまいましたね」(競馬記者)
レース後には「最後の直線コースで外側に斜行した」としてJRAから戒告を受けた武豊騎手。まさに踏んだり蹴ったりと言わざるを得ない結果だが、別の記者は「武豊騎手だけが悪いとは言えない」という。
「武豊騎手も第一声に『引っ掛かるね』と話した通り、今回はカルロヴェローチェがかなり行きたがったので、手綱を引いてポジションを下げざるを得ませんでした。結果的に、これで位置取りが悪くなって最後の直線で行き場を失ってしまった経緯があります。
ただ、こうなってしまったのも前走で逃げる競馬をしてしまった影響が大きいように思えます。あれで馬の前進気勢が強くなったことが、今回折り合いを欠いてしまった原因の一つになっているでしょうね」(別の記者)
ちなみに記者が話す前走の白梅賞(1勝クラス)でカルロヴェローチェに騎乗していたのは、先月一杯で騎手を引退した福永祐一騎手(当時)だった。
福永騎手は若い馬に騎乗する際「一度逃げを覚えると、その後の成長が見込めなくなってしまう」という持論があり、後輩の川田将雅騎手にも「安易に逃げるな」とアドバイスを送ったことでも有名だ。
今回は、まさにその言葉を裏付けるような結果だったが、福永騎手が尊敬する武豊騎手を“被害者”にしてしまったのは、何とも皮肉な話である。
「カルロヴェローチェは陣営の期待も非常に大きい馬ですし、春の大舞台を見据えたこの時期の1勝は本当に大きい。だからこそ福永騎手も普段あまりやらない逃げを選択したと思いますし、結果的に貴重な勝利を挙げた以上、その選択も正しかったと思います。
ただ、そのレース後にも『コントロールが利かないわけではないけど、気持ちが前向き』と話し『今後の課題ですね』として前進気勢を課題に挙げていました。今回はその懸念がモロに出てしまった格好ですね」(同)
レース後、「馬混みで競馬をすることができたし、勉強になった」と話したのは、カルロヴェローチェを管理する須貝調教師だ。賞金加算には成功したこともあって、次走はタマモブラックタイと同じくNHKマイルCが濃厚だが、気性面の改善は必須になるだろう。
前走で貴重な1勝を挙げ、今回の重賞2着につなげたカルロヴェローチェだが、その代償は小さくないのかもしれない。