「5秒3差」が直撃したメイケイエールの惨敗、高松宮記念(G1)でレコードホルダー2頭に明暗…ファストフォースの激走が単純明快だったワケ

メイケイエール 撮影:Ruriko.I

 降りしきる雨の中、桶狭間で繰り広げられたスプリント決戦を制したのは、12番人気で激走したファストフォース。父にロードカナロア、母父にサクラバクシンオーという日本が誇るスプリンターの血が、7歳を迎えた春にようやく実を結んだ。

 殊勲の勝利を掴んだ団野大成騎手と同じく人馬でこれがG1初勝利。得意とする中京の芝1200m条件で文句なしの大金星だったファストフォースだが、同舞台のシルクロードS(G3)ではナムラクレアのアタマ差2着、昨秋のセントウルS(G2)では、メイケイエールに2馬身半差の完敗を喫していた。天敵2頭を相手に手にした頂点の座となった。

 ただ、底力を見せて2着に入ったナムラクレアに対し、1番人気に支持されたメイケイエールはよもやの12着と惨敗。先述したセントウルSを1分6秒2の快時計で圧勝していた馬にとって、降り続く雨で猛烈に悪化した不良馬場は、精神的にも肉体的にも好材料とはならなかったようだ。

 これには鞍上の池添謙一騎手も「飛びが大きくきれいな馬なのでここまで悪くなるとこの馬には向いていない馬場」と敗因を分析。G1を勝てるだけの能力を持ちながらも、「去年は不利な外枠で、今年は内枠」と悔やんだ。

 実際、メイケイエールがマークした1分6秒2(良)と今年の高松宮記念の勝ちタイム1分11秒5(不良)の落差は実に5秒3。さすがにここまで馬場が悪化してしまうと、適性の差が直撃したと考えるしかなさそうである。

 これに対し、勝ったファストフォースもまた、2年前の夏に小倉で行われたCBC賞(G3)で1分6秒0(良)のレコードを叩き出していた馬だ。どちらもレコードを計時したくらいの快速馬なのだから、メイケイエール同様に時計のかかる重馬場が得意ではないようにも映る。

ファストフォースの激走が単純明快だったワケ

 しかし、良馬場でレコードを出した2頭の間に単純明快な違いがあったことも事実。なぜならファストフォースには、かつて3歳未勝利戦を勝ち上がれずに、ホッカイドウ競馬に移籍した過去があったからだ。

 デビュー当時は中距離を使われた同馬だが、ダート競走が主体となる地方競馬へ移籍後に短距離へシフトしてからスプリンターの血が開花。4歳夏に中央へ出戻ってからは、徹底して芝1200mを中心に使われてきた。このときの苦い経験が精神面でのタフさや、不良馬場でも問題なくこなせるバックボーンとなったのだろう。

 早くから才能を見出され、クラシック戦線を歩んだお嬢様に比して、一度は中央で失格の烙印を押されていた馬が遠回りを経て手にした大金星といえる。エリート路線を歩んだお嬢様と地獄から帰ってきた老兵。2頭の両極端な経歴が、大一番で明暗を分けたといえないだろうか。

 勿論、池添騎手がG1級と信じて疑わないメイケイエールもポテンシャルの高い馬であることは間違いない。今回の挫折を糧に再び悲願のG1勝利を目指してもらいたい。

高城陽

大手新聞社勤務を経て、競馬雑誌に寄稿するなどフリーで活動。縁あって編集部所属のライターに。週末だけを楽しみに生きている競馬優先主義。好きな馬は1992年の二冠馬ミホノブルボン。馬券は単複派で人気薄の逃げ馬から穴馬券を狙うのが好き。脚を余して負けるよりは直線で「そのまま!」と叫びたい。

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