大物オーナーの「預託予定」連発に期待大!福永祐一調教師が挑む史上初の偉業
10日から2日間に渡って開催された「セレクトセール2023」が閉幕。今年も2日間の総売上で史上最高額を更新する281億円超えを記録するなど、例年以上の大盛況となった。
2日間を通じての最高落札額となったのが、11日に登場した「コンヴィクション2の2023」という当歳の牡馬だ。アルゼンチンのG1馬である母から誕生したコントレイル産駒は5億2000万円で落札され、これは1歳馬も含めたセレクトセール史上で歴代3位にランクインする取引価格となった。
落札者は同馬の父・コントレイルを生産した(株)ノースヒルズ。前田幸治代表は「最大の開業祝いということで」とし、かつてコントレイルの主戦騎手を務め、来年3月に新規開業予定の福永祐一厩舎に預託することを明言した。
福永厩舎と言えば、10日の1歳馬セールでもキタサンブラック産駒で2億9000万円の落札価格を叩き出した「アイムオールレディセクシーの2022」を購入した廣崎利洋HD(株)のオーナーが「祐一くんのところへ」とコメント。
さらに同じキタサンブラック産駒の牝馬で8800万円の値がついた「アルテリテの2022」も、落札した“ウマ娘オーナー”こと藤田晋氏が「個人的に親しいのでお願いできればと」と預託予定であることを明かしている。
なんと明言があった3頭だけで総額8億9800万円という驚きのラインナップ。豪華すぎる“開業祝い”を受けた福永調教師に期待がかかるのが、前人未到の「ダブル三冠」という大偉業である。
2020年にコントレイルとのコンビで史上8人目のクラシック三冠を達成した福永師。もし調教師としても三冠を成し遂げることができれば、日本の競馬史にその名を刻む唯一無二の存在となる。
ここで過去のクラシック三冠馬と騎手・調教師を振り返ってみよう。
▼クラシック三冠馬と騎手/調教師
1941年 セントライト(小西喜蔵/田中和一郎)
1964年 シンザン(栗田勝/武田文吾)
1983年 ミスターシービー(吉永正人/松山康久)
1984年 シンボリルドルフ(岡部幸雄/野平祐二)
1994年 ナリタブライアン(南井克巳/大久保正陽)
2005年 ディープインパクト(武豊/池江泰郎)
2011年 オルフェーヴル(池添謙一/池江泰寿)
2020年 コントレイル(福永祐一/矢作芳人)
三冠を達成した調教師のうち、騎手としてG1を制した経験を持つのはシンボリルドルフを手掛けた野平祐二氏ただ一人。スピードシンボリでの有馬記念(G1)連覇などG1を計7勝した名手であるが、クラシックとは縁がないまま騎手を引退している。
また、三冠という点で言えば1964年にカネケヤキとのコンビで牝馬二冠を達成したものの、当時は秋華賞(G1)やエリザベス女王杯(G1)はおろかその前身であるビクトリアカップも創設される前だったため、牝馬での“三冠”という選択肢がなかった。
それでも、三つ目の冠を狙うべくカネケヤキと野平氏は牡馬クラシックの菊花賞(G1)に挑んだのだが、結果は5着。変則三冠の夢も叶わずじまいだった。
一方で、“元クラシック三冠騎手の調教師”という視点で見ても、ミスターシービーの主戦だった吉永正人氏が調教師として制した重賞は1998年中山大障害・秋の1勝だけ。
ナリタブライアンの主戦だった南井克巳氏もJRAの重賞は計13勝を挙げているが、G1制覇は2000年のジャパンカップダート(G1・現チャンピオンズC)がキャリア唯一で、そのまま今年の2月に定年引退を迎えている。
福永師はそんな2名の偉大な先人の想いも受け継ぐ形で、史上初の「クラシック三冠ダブル達成」を成し遂げることができるか。それが“第二の人生”における最大の目標となるだろう。
もともと期待が大きかったことに加え、セールでも高額馬の預託予定が続々と明かされているほか、ここに来て大物一口馬主クラブの募集馬の中にも所属欄に「関西・新規開業」の文字が躍る超良血馬の存在もちらほらと見受けられ、福永厩舎への入厩がウワサされている期待株もいる。
その分だけのしかかってくる重圧も大きくなるが、本人は騎手引退から調教師デビューに向けた準備を進めていく中で、「最初からうまくいくとは思っていない」と常々口にしていた。
思えば、騎手時代も“天才の遺伝子を継ぐもの”としてデビュー前から大きな期待を受けながら、時間をかけて様々な苦境を乗り越えてみせ、43歳10カ月と17日での三冠達成は史上最年長という記録のオマケ付きだった。挫折や葛藤との付き合い方はしっかりと心得ている。
強大なバックアップを味方に、調教師としてのキャリアはどんな歩みとなるのか。まずは大偉業に向けた第一歩として、今から来年春のデビューが楽しみだ。