「走ってくれないと困る」ダノンスコーピオン絶好仕上げも12着大敗…「痛恨不利」原因は元主戦。中京記念(G3)は遺恨の残るレースに?
23日、中京競馬場で行われたサマーマイルシリーズ第2戦・中京記念(G3)は、8番人気のセルバーグ(牡4歳、栗東・鈴木孝志厩舎)が重賞初制覇。第1戦の米子S(L)では2番人気に推されながらも12着と悔しい結果だったが、見事にその素質の高さを示している。
「馬場や枠、展開など、すべてが良い方に向いてくれました」
レース後、鞍上の松山弘平騎手がそう振り返った通り、今回はスタート直後からハナに立つ積極果敢な逃げが功を奏した会心の勝利。年明けは2勝クラスだったが、約半年間で重賞ウイナーまで急成長。充実著しい4歳馬だけにサマーマイルだけでなく、秋の大舞台でも楽しみな存在になりそうだ。
その一方、同じ4歳馬でありながら、早くもキャリアの岐路に立たされているのが、マイル王ダノンスコーピオン(牡4歳、栗東・安田隆行厩舎)だ。
昨春、アーリントンC(G3)とNHKマイルC(G1)を連勝し、マイル王に輝いたダノンスコーピオン。秋には世代を代表して古馬のトップマイラーに挑んだが、マイルCS(G1)で11着に大敗……この辺りから、輝かしいキャリアの歯車が大きく狂いだした。
12月の香港マイル(G1)を6着に敗れて仕切り直しの2023年を迎えたダノンスコーピオンは、安田記念(G1)を目標に京王杯スプリングC(G2)から始動。復活を期待したファンが1番人気に支持したが、11着に敗れている。
一方、主戦の川田将雅騎手はレース後に「今回は着順以上に良い内容。次に繋がると思います」と前を向いたが、自身は本番の安田記念ではソダシに騎乗。M.デムーロ騎手に乗り替わったダノンスコーピオンだったが、13着に大敗すると「敗因がよくわからない」と鞍上も首を傾げる他なかったようだ。
その後、今回の中京記念までの約1か月半は、陣営の「このままでは終われない」という必死さが伝わる内容だった。
弱点の右後肢を強化するために鍼(はり)を打つなど、一から立て直し。その効果もあって、ダノンスコーピオンは中間の追い切りで好時計を連発して復活をアピール。ロードカナロアやカレンチャンなど、数々のスピードスターを手掛けてきた安田隆調教師をして「今回は走ってくれないと困るという気持ち」と太鼓判を押すほどの好仕上がりだった。
しかし、結果は12着。59キロのハンデが痛かったことは確かだろうが、それでもここまで負ける馬ではなかったはずだ。
「スタート直後に隣にいたベジャールがヨレてきて、接触したのが痛かったですね。相手が558キロの大型馬ということもあって、あれで後方からの競馬を余儀なくされる展開になってしまいました。
さらに、ようやく走りのリズムが立て直ってきた4コーナー手前で、今度は前を走っていたルージュスティリアが前の馬の脚と接触してバランスを崩したことに巻き込まれる不利……。
レース後、勝ったセルバーグの松山騎手が『すべてが良い方に向いてくれた』と話していましたが、逆に『すべてが悪い方に向いてしまった』のがダノンスコーピオンだったと思います。
中間は坂路でラスト11秒台を連発するなど、入念な乗り込み。はっきり言って、仕上がり自体は前走のG1(安田記念)よりも良く見えたくらいだっただけに、非常に残念な結果になってしまいました」(競馬記者)
強い気持ちで巻き返しを誓ったダノンスコーピオン陣営にとっては、まさに不完全燃焼に終わってしまったが、不利を与える加害馬となったルージュスティリアの鞍上が元主戦の川田騎手というのは、何とも皮肉な結果と言わざるを得ない。
また、前の馬と接触したルージュスティリアとしても藤原英昭調教師が「3コーナー過ぎで寄せられた」と話している通り、ディヴィーナが内に進路を絞った影響があっただけに、これでJRAから戒告を受けた川田騎手にしても思うところはあるだろう。
川田騎手といえば「ダノン」との蜜月関係は有名なところ。ダノンスコーピオンを管理する安田隆調教師は師匠である。さらに、ディヴィーナの鞍上が安田記念で川田騎手に替わってダノンスコーピオンに騎乗して原因不明の大敗を喫したデムーロ騎手というのだから、レース後には様々な思いが交錯したに違いない。
偶然が重なった結果とはいえ、遺恨の残るレースにならないことを願うばかりだ。