日本ダービー馬は運が良いだけ!? 天皇賞・春(G1)J.モレイラ「完璧騎乗」もタスティエーラ惨敗の絶望感…G1「2勝以上」上積みは2007年ウオッカが最後
「長距離は騎手で買え」最も完璧だったのはアノ騎手
相棒テーオーロイヤルの力を信じて横綱相撲を演じた菱田裕二騎手。
位置取りこそ後ろになってしまったが落ち着いた道中から上がり最速の末脚を引き出した2着ブローザホーンの菅原明良騎手。
積極的な競馬で3着ディープボンドを復活させた幸英明騎手。
父譲りのイン突きで14番人気の低評価を跳ね返して4着に善戦したスマートファントムの岩田望来騎手――。
「長距離は騎手で買え」という格言通り、先週28日の天皇賞・春(G1)は各馬の頑張りだけでなく、騎手の技が光ったレースだった。
そんな中、上記した彼らに負けるとも劣らない……いや、もしかしたら彼らさえ上回るような完璧な騎乗を披露したのが、香港のマジックマンことJ.モレイラ騎手ではないだろうか。
レース後、モレイラ騎手からは「想定通りのレース」「ラチ沿いの良い所をロスなく運べた」「折り合ってリズム良く、いい展開だった」と前向きなコメントばかりが並んだ。これだけを見ても、ジョッキーは悔いの残らない完璧なレース運びができたことが伺える。
J.モレイラ騎手が「完璧」もタスティエーラは惨敗の絶望感
しかし、モレイラ騎手が自画自賛するほど完璧なレース運びをしたからこそ、逆に7着という結果はタスティエーラ(牡4歳、美浦・堀宣行厩舎)にとって重い。
言わずと知れた昨年の日本ダービー馬であり、最優秀3歳牡馬。前走の大阪杯(G1)で1番人気に支持されたように、本来であれば世界No.1ホース・イクイノックスが去ったこれからの競馬界を支えていくべき存在だ。
だが、その大阪杯で11着に大敗すると、今回の天皇賞・春もモレイラ騎手が完璧な競馬をしたにもかかわらずの7着……。同世代の菊花賞馬ドゥレッツァも熱中症の影響で15着に沈んだこともあって、元JRA騎手の安藤勝己氏からは「世代レベルがやっぱりあるでしょ」(公式Xより)と世代ごと切り捨てられている。
そんな安藤氏だけでなく、この先タスティエーラがさらなるビッグタイトルを上積みする姿を想像できるファンは少数派と言わざるを得ないだろう。
実は、牡馬クラシックで日本ダービーだけを勝利した馬が、後にG1を2勝以上上積みした例は2007年のウオッカ(牝馬)が最後である。日本ダービーにグレード制が導入された1984年以降まで遡っても、1998年のスペシャルウィークが加わるだけだ。これは同じ牡馬三冠の皐月賞(G1)や菊花賞(G1)と比較しても見劣りする。
古くから「最も速い馬が勝つ」と言われる皐月賞と「最も強い馬が勝つ」と言われる菊花賞と並んで、日本ダービーは「最も運が良い馬が勝つ」と言われている。
速い皐月賞馬と強い菊花賞馬に対して、運が良いダービー馬とは如何にも微妙な評価と言わざるを得ないが、これは昔東京のフルゲートが28頭もおり、紛れの多くなるレースだったことが由来しているそうだ。
だが、皮肉にもフルゲートが18頭になった近年のダービー馬の活躍ぶりを見る限りでも、ダービー馬は「運が良い馬」と言われても仕方のない状況が続いている。筆者のような凡夫であれば運が良いだけでも御の字だが、速さと強さを競う競走馬にとって「ラッキー」は単純な誉め言葉にはならないだろう。
すでにドバイシーマクラシック(G1)を勝っているシャフリヤール、昨年末の有馬記念(G1)で劇的な復活を飾ったドウデュースがこの先G1を勝てば、ウオッカ以来の“殻”を突き破ったダービー馬になる。無論、DDSP(喉の症状)を抱えるタスティエーラの復調も信じて待ちたいところだ。
読者の中にはウオッカの時代、スペシャルウィークの時代の競馬の盛り上がりを覚えているファンも少なくないだろう。関係者の尽力もあって、今や競馬が日本が世界に誇る一大レジャーに成長したことは誰もが認めるところだが、さらに盛り上げるために「強いダービー馬」の君臨は欠かせないはずだ。