リバティアイランド、ドゥレッツァ「戦線離脱」に思うドゥラメンテの儚さ。そして思い出されるアグネスタキオンとの共通点
相次いだ有力馬の戦線離脱
3日、前年の菊花賞馬ドゥレッツァ(牡4歳、美浦・尾関知人厩舎)が右第1指骨剥離骨折を発症したことがわかった。同馬が所属するキャロットクラブが公式ホームページで発表している。
先月28日の天皇賞・春(G1、芝3200m)で2番人気に支持されたものの見せ場なく15着に大敗していたドゥレッツァ。3000mのG1馬が勝負所を待たずにズルズル後退した様子に多くのファンから心配の声が上がっていたが、当初は軽い熱中症が原因とされていた。
今後、ノーザンファーム天栄で治療に専念することになるが、幸い症状は軽い様子。春のG1戦線を彩る有力馬の離脱は残念だが、秋にはまたその雄姿が見られそうだ。
そんな残念なニュースから数時間後、またもビッグニュースが飛び込んできた。昨年の牝馬三冠馬リバティアイランド(牝4歳、栗東・中内田充正厩舎)の右前脚の種子骨靭帯に炎症が確認されたため、春は全休になるというのだ。幸い、こちらも症状は軽いため秋の復帰が見込まれているが、重ね重ね残念なニュースが続いた。
この2頭には、昨年のクラシックホースという点以外にも大きな共通点がある。父がドゥラメンテなのだ。
2015年に皐月賞(G1)を制し、単勝1.9倍に推された日本ダービー(G1)も圧倒的な強さで制覇したドゥラメンテ。世代に敵なしと言われ、秋は日本競馬を代表しての凱旋門賞(仏G1)挑戦、もしくは菊花賞で三冠濃厚とみられていた。
ところが、その後に骨折が発覚してしまい、約9か月の長期離脱を余儀なくされることに。復帰戦となった翌年の中山記念(G2)こそ勝利したものの、続くドバイシーマクラシック(G1)、宝塚記念(G1)で連敗。その後に左前肢ハ行で現役を引退するなど、ついに本来の輝きを取り戻すことなくターフを去った。
その後、初年度から菊花賞馬タイトルホルダーを送り出し、先述したドゥレッツァ、リバティアイランドを輩出するなどドゥラメンテの種牡馬としての活躍ぶりは、優秀な現役時代以上の評価といえるだろう。昨年ついにリーディングサイアーを獲得し、本来であればこれからの日本競馬を支えていく存在になるはずだったが、周知の通り2021年に急性大腸炎のために死亡。今年の2歳がラストクロップとなっている。
そんな一瞬ながら極めて大きな輝きを放ったドゥラメンテの馬生。そして、優秀な産駒たちもまた父同様、脚元や体質の問題に悩まされている様子は、1頭の名馬を思い起こさせる。
2001年の皐月賞馬アグネスタキオンだ。
ドゥラメンテと共通点が多いアグネスタキオン
4戦4勝という完璧な成績で皐月賞を制したアグネスタキオンは、現役時代の二冠馬ドゥラメンテ同様、春の段階で三冠濃厚と言われるほど抜けた存在だった。しかし、日本ダービーへ向けて調整されている際に左前浅屈腱炎を発症。志半ばでの引退を余儀なくされた。
ダイナカールを3代母、エアグルーヴを2代母に持ち、兄のルーラーシップがG1を勝って種牡馬入りするなど、折り紙付きの良血馬だったドゥラメンテ同様、アグネスタキオンもまた兄がダービー馬であり、祖母がオークス馬、母が桜花賞馬という日本でも屈指の名血の出身だった。
そんな背景もあって、大きな期待を懸けられて種牡馬入りしたアグネスタキオンは、初年度からロジックがNHKマイルC(G1)を制覇。2年目には最強牝馬に数えられるダイワスカーレットを輩出、さらに翌年にはキャプテントゥーレが皐月賞を、ディープスカイがNHKマイルCと日本ダービーの変則二冠を達成するなど、あっという間に種牡馬のスターダムに上り詰めた。
2008年のリーディングサイアーに輝いたアグネスタキオンは、当然ながら2002年に亡くなった偉大過ぎる父サンデーサイレンスの後継筆頭に躍り出た。しかし、その翌年に11歳という若さ死去。この点もキングカメハメハの後継筆頭と考えられていたドゥラメンテ(9歳で死去)とよく似ている。
そして、やはり産駒たちも優秀な成績を収めた一方で、父同様、脚元や体質の問題に悩まされた。
競走馬として、そして種牡馬として極めて優秀な成績を収めながら、志半ばで散ったドゥラメンテとアグネスタキオン。もしこの2頭が大往生できていれば、日本の競馬にさらに大きな影響を与えていたことは間違いないだろう。
だが、逆に長い競馬の歴史の中で一瞬の輝きを放ったからこそ、今なお多くのファンにインパクトを残した“伝説”として記憶されているはずだ。