弥生賞で断たれたクラシック三冠馬への夢、大楽勝したフジキセキの底知れない強さ
5日、中山競馬場にてクラシックの登竜門となる皐月賞トライアル、弥生賞ディープインパクト記念(G2)が開催される。
今年は抜けた馬がいるわけではなく、このレースが終わったタイミングで勢力図がある程度はっきりしてくるのであろう。近年で皐月賞馬が出ていないものの、弥生賞が現在も出世レースであることは間違いない。過去59回の歴史を遡ってもクラシックホースの名前がずらりと並ぶレースなのだ。
だが、一方で弥生賞を勝って「三冠間違いなし」とまで評価されながらも、このレースを最後にターフを去ってしまった馬もいる。
今回はそんな弥生賞を勝ちながら「幻の三冠馬」になってしまった馬を紹介したいと思う。
それが、日本の競馬界をガラッと変えてしまった名種牡馬サンデーサイレンスの初年度産駒として誕生した1995年の勝ち馬フジキセキだ。
誕生当時から評判の高い馬だったが、デビューしてその評価が本物であったことに驚くことになる。新馬戦を8馬身差、2戦目をレコード勝ちし、迎えた朝日杯3歳S(現朝日杯FS・G1)も並外れた勝負根性を見せてノーステッキで快勝。無敗で3歳を終え、早くも三冠確実との声が上がるほどだった。
そして迎えたクラシックシーズン、初戦に選んだのがこの弥生賞だ。この時点でフジキセキに並ぶほどのスケールを持った馬はおらず、単勝1.3倍の圧倒的1番人気に推される。2番人気のホッカイルソーが5.8倍、3番人気のトウショウフェノマは11.0倍となり、いかにフジキセキが抜けていると考えられていたのかがうかがえる。
大楽勝したフジキセキの底知れない強さ
レースは外枠から好スタートを切ったフジキセキがじわじわとポジションを上げていき、1コーナー手前ではハナに立つ勢いで2番手をキープ。1000m通過62.5秒のスローペースの中、3コーナー過ぎから先頭に立って、直線では1頭抜け出して引き離しにかかる。後ろからホッカイルソーが追い込んできたが、ムチを入れることなく並ばせないで突き放した。2馬身半差をつける完勝を飾り、4戦4勝の無敗でクラシックへ向かうことになった。
だが、皐月賞(G1)に向けて調整中、左前脚に屈腱炎を発症。復帰に相当な時間がかかると判断された結果、このまま引退を余儀なくされてしまった。
このレースを見たファンのほとんどは、95年春のクラシック二冠はもう決まったと確信したはずだ。事実、結果論になってしまうが、この年のダービーを勝ったタヤスツヨシがもみじS(OP)でフジキセキに完敗しており、そのタヤスツヨシは皐月賞で負けたジェニュインをダービーで破っている。
競馬に「たられば」はナシだが、弥生賞後も無事でいれば、おそらく春のクラシックはフジキセキが席巻していただろう。鞍上の角田晃一騎手(現調教師)も「菊花賞は分からないですけど、皐月賞、ダービーまではたぶん大丈夫だったんじゃないかと思います」と後に語ったほどである。
その意志を継いだ産駒に日本ダービー(G1)を制した馬は出て来なかったが、芝・ダートを問わずスプリントから中距離まででG1馬を送り出した。2014年にはイスラボニータが皐月賞を制し、産駒初のクラシックタイトルを手にした。
フジキセキが果たせなかったダービー制覇の夢は、これからも産駒たちに引き継がれていく。