新星アグリが挑む“ロードカナロア超え”…短距離の名門が最後の高松宮記念(G1)へ

 2月のフェブラリーS(G1)から約1カ月。JRAのG1戦線が小休止を経て再開する。26日の中京競馬場で行われるのが、春のスプリント王決定戦・高松宮記念(G1)だ。

 前日にドバイワールドカップデーの開催もあるが、昨年の1~5着馬が1頭も欠けることなく登録してきたことに加え、悲願のG1獲りを目指す快速牝馬のナムラクレアとメイケイエールが揃って参戦を表明。さらには1年4カ月ぶりの実戦に臨む、かつての秋のスプリント王・ピクシーナイトなど、楽しみなメンバーが揃った。

 昨秋のスプリンターズS(G1)を制したジャンダルムが現役を退き、ぽっかりと空いた王座に就くのはどの馬になるのか。中でもスプリント界の新星として注目を浴びているのが、4連勝と勢いに乗ってG1に殴り込みをかけるアグリ(牡4歳、栗東・安田隆行厩舎)である。

 昨年の8月札幌で1勝クラスを突破すると、そこから2勝クラスと3勝クラスを連勝。年明け初戦に選んだ阪急杯(G3)では、昇級戦かつキャリア初の重賞挑戦ながら、2番手から押し切る王道の競馬で重賞初勝利を手にしている。

 最後は2着のダディーズビビッドに詰め寄られ、結果的にはクビ差という辛勝にはなったものの、手綱を取った横山和生騎手がレース後に語ったのは「良い雰囲気で脚を使ってくれると思っていたのですが……」というまるで反省の弁のような振り返り。

「自分としてはまだまだ良化の余地を残していると感じましたので、ここで勝ち切れたというのはとても大きいと思います」と付け加え、本調子ではない中でも重賞初勝利を掴み取った相棒の奮闘を称えた。

 実は安田景一郎調教助手も「1度使った方が良くなる感じがしていて、七~八分くらいの出来でした」とし、騎手と同じように状態面が100%ではなかったことを強調しつつ、「思ったより強い勝ち方をしてくれました。この状態で勝てたことで楽しみが広がりました」と手応えを口にしている。

 この2人の証言を踏まえれば、今回は初のG1挑戦で相手もさらに強くなるとはいえ、叩いた上積みも見込めるという点も含めて期待は膨らんでくる。5連勝で一気にスプリント界の頂点へ。またその期待を増幅させるのが、安田隆厩舎で鍛えられてきたという生い立ちである。

短距離の名門が最後の高松宮記念(G1)へ

 安田隆調教師といえば、JRAのG1を通算14勝もしている日本のトップトレーナーの一人であり、その中でも“短距離界の名門”というイメージを持っている方も多いのではないか。

 その印象はやはり代表馬・ロードカナロアによるところが大きいのだが、実は通算14勝の内容を振り返ってみても、その80%弱にあたる11勝が1600m以下の距離のレースで挙げたものだった。加えて、この高松宮記念は調教師として歴代最多の3勝をマークしている。

 しかし、そんな名伯楽も今月5日に70歳の誕生日を迎え、来年2月には定年での引退を控えている。ということは、今回は調教師として挑む最後の高松宮記念ということになるのだ。

 2012年のカレンチャン、2013年のロードカナロア、2021年のダノンスマッシュに続く4度目の優勝を掴み取ることができるか。名門が手がける最後の大物スプリンター候補・アグリの奮起に期待したいところだが、実はこの高松宮記念というレースは若き新星にとって攻略するのが困難な舞台となっている。

 同レースが3月の中京で行われるようになった2000年以降、4歳馬の成績は【4-4-5-79/92】で勝率はわずか4.3%の低水準。成長著しい明け4歳馬であっても、専門家の多いスプリント路線においては、経験豊富な先輩たちをいきなり負かすというのはなかなかにハードルが高いようだ。

 上述した安田隆厩舎の優勝馬を見ても、ダノンスマッシュは4歳時が4着で5歳時には10着と惨敗。2年続けて苦汁をなめた後、6歳となった2021年に3度目の挑戦でようやくタイトルを手にした。

 そしてあのロードカナロアも、5連勝と勢いに乗った状態で挑んだ4歳春の高松宮記念で1番人気3着。古馬の壁に跳ね返され、連勝がストップした。それでも、その年の秋冬にスプリンターズSと香港スプリント(G1)を連勝してみせ、翌春の高松宮記念では1年前のリベンジを果たしている。

 アグリの場合はこの“年齢の壁”に加えて、1200m戦自体も過去に1度しか経験がないという点も不安要素として挙がる。しかもキャリア9戦で馬券外が1回しかない馬の、その唯一の馬券外というのが昨年7月に札幌・芝1200mで行われた1勝クラス戦だった。

 それでも、そのレースで騎乗していた横山和騎手は、前走の阪急杯の後に「去年の夏に乗せていただいた時から見違えるように馬が変わっていた」と語り、「全てにおいて、馬の雰囲気から、芯の入り方から、何から何までガラッと変わっていました」とその変貌ぶりに舌を巻く。

 また、今回の追い切りを担当した臼井助手も、『日刊スポーツ』の取材に対して「もう1段階上がっている感じ」とさらなる成長に言及しつつ、1200mの距離に関しても「1回使っているけど、あの時とは具合も馬もだいぶ違う」と不安がないことを強調。この馬の背中をよく知る2人が現状に太鼓判を押しているというのは、心強い限りだ。

 厩舎の看板馬・ロードカナロアでも成しえなかった“4歳での高松宮記念制覇”を成し遂げ、恩師に最高のプレゼントを贈ることができるか。スプリント界の新王者誕生の瞬間を楽しみに待ちたい。

GJ 編集部

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