武豊「もう乗れないのかなと思っていた」藤岡佑介で敗れた昨年と何が違ったのか…前人未到の金字塔打ち立てたコンビに新たな課題
競馬界のレジェンドがまた新たな金字塔を打ち立てた。
2日に阪神競馬場で行われた大阪杯(G1)をジャックドールとのコンビで制した武豊騎手は、これが記念すべきJRAG1・80勝目のメモリアル。54歳19日でのG1制覇は岡部幸雄元騎手がマークした2002年の天皇賞・秋(G1・シンボリクリスエス)の53歳11か月を更新。また、武豊騎手は1988年の菊花賞(G1・スーパークリーク)を19歳7ヶ月23日で優勝しているため、最年長と最年少の両方でG1勝利をした記録の持ち主ということになる。
「香港で結果を出せなかったので、もう乗れないのかなと思っていた」
レース後の勝利騎手インタビューに満面の笑顔でそう答えた武豊騎手の表情からは、安堵の気持ちも伝わった。喜びを分かち合ったジャックドールとは、前走の香港C(G1)で初コンビ。G1級といわれた大器に武豊騎手が騎乗するとあって、大きな注目を集めたものの、結果は7着と不完全燃焼に終わっていた。
「またこうやってチャンスをもらえたことが、すごく嬉しかった」「僕の中ではもう何とか結果を出さなきゃいけないという気持ちが強かった」と答えたあたり、背水の陣にも近い気持ちで臨んでいたことが分かる。開口一番で「もう本当に嬉しいです」という言葉が出たのも、このレースに懸けた想いの表れかもしれない。
自身の公式サイトで「逃げにこだわる馬ではありませんが、メンバーを見渡せばそういう競馬になるのかなという気もしています」と述べていたように、スタートさえ決まれば逃げる作戦は、戦前に描いたプラン通り。インタビュアーの質問に対し、「今日の馬場状態なら59秒くらいで1000mに入りたいなと思っていた」と振り返った通り、実際に大阪杯のジャックドールは58秒9で通過していたのだから恐れ入る。
体内時計の正確さに定評のある武豊騎手だが、大一番でも寸分の狂いもなく道中のラップを刻んでいたのは、さすがの一言だ。ゴール前でスターズオンアースの強襲に遭い、ハナ差の辛勝だったとはいえ、スタートからゴールまでレースを支配した手腕には唸らされる。
その一方でひとつ気になったのは、先述した1000m通過58秒9という数字だ。既に気付かれた方も多いだろうが、このラップは昨年の大阪杯でジャックドールが4着に敗れた際にマークしていた58秒8とわずか0秒1の差でしかない。
にもかかわらず、昨年は最後の直線で粘りを欠き、今年は好走できた理由とはなんだったのだろうか。
前人未到の金字塔打ち立てたコンビに新たな課題
レース中に落鉄のアクシデントや、当時は武豊騎手ではなく藤岡佑介騎手が騎乗していたことも、その理由の一つといえばそうなのだが、おそらく決定的な違いがあったとすれば、当日の馬場状態だったといえる。レジェンドが「今日の馬場状態なら」と触れていたことを思えば、昨年の場合は少し速かったともいえる。
比較材料として参考になるのは同日9Rの明石特別(2勝クラス)の結果だ。内回りの芝2000mが条件だったこのレースは大阪杯と同じ舞台。勝ち馬のテーオーソラネルが単勝1倍台の断然人気だったとはいえ、先手を取ると前半1000m通過が61秒5の緩いペースに持ち込み、最後の直線で後続を寄せ付けない圧勝劇を演じていた。
これに対し、昨年の明石特別は同じようにスローペースで流れていたものの、結果は追い込んだ馬が1着2着に入る差し馬向きの展開。2年続けて良馬場で開催された大阪杯ながら、差しの決まりやすかった昨年に比して前が残りやすかった今年の馬場は、逃げ先行を得意とするジャックドールの強力な援軍となったはずだ。
勝ち時計にしても、昨年のポタジェは1分58秒4で今年のジャックドールは、それより1秒も速い1分57秒4。結果、レコードに0秒2差だったのだから、当日の阪神の芝コースが高速馬場だったと考えていいだろう。
そういう意味では、後続馬が控えて道中をマイペースで運べた展開や、開催時期の被るドバイワールドカップデーにトップクラスの多くが参戦した関係で、相手に恵まれたことは否めない。
待望のG1初勝利を手に入れたジャックドールだが、エフフォーリア以外のメンバーは手薄という下馬評だった昨年と大きな違いはなかった可能性がある。G1昇格後に大阪杯を優勝した馬の顔触れを見ると、キタサンブラック以外にこれといった大物が出ていないという現実にも直面する。一線級のライバルと互角に戦っていくには、さらなるパワーアップを求められそうだ。