「怪物か、実績か――」武豊も頭を悩ますジャパンダートダービー(G1)に史上最強メンバー集結!? 米G1・2着馬、7戦7勝・約56馬身差の女王…JRA勢を迎え撃つ地方勢も大物揃い
今週のオークス(G1)、そして来週には日本ダービー(G1)が開催されるなど、いよいよ盛り上がりのピークを向かる今年の3歳クラシック路線。競馬界の将来を担う若き才能の激突は、現在だけでなく大きな未来にも繋がる。
その一方、今年の3歳戦クライマックスは、オークス・日本ダービーだけではない。異例のハイレベルと言われる「もう1つのダービー」ジャパンダートダービー(G1)が7月に控えているからだ。
例年なら圧倒的な主役になっておかしくないのが、デルマソトガケ(牡3歳、栗東・音無秀孝厩舎)だ。
3連勝で12月の全日本2歳優駿(G1)を制した、昨年の“最優秀2歳ダート馬”。明け3歳を迎えた今年は海外遠征を敢行してサウジダービー(G3)3着、UAEダービー(G2)1着、そしてケンタッキーダービー(G1)6着と、各国のダービーで堂々たる戦いを見せた。
次走こそ未定だが、仮にジャパンダートダービーに出走すれば主役になるのは間違いないだろう。ここまでの戦績は、歴代のダート3歳馬の中でもトップクラス。今年だけでなく、将来的にも日本のダート界を背負って立つ存在になりそうだ。
だが、このデルマソトガケの1強ムードにならないのが、今年の3歳ダート馬たちが例年以上のハイレベルと言われている所以。特に3連勝中のミトノオー(牡3歳、美浦・牧光二厩舎)は、デルマ不在なら間違いなく主役になれる器だ。
キャリア5戦4勝で敗れたのは1400mのオキザリス賞(1勝クラス)のみ。距離不足だけでなく、向正面で不利を受けての敗戦だった。その後、1800m以上に距離を延ばして3連勝を飾っている。
特に武豊騎手が騎乗した前走の兵庫チャンピオンシップ(G2)は、2着キリンジに6馬身差をつける圧巻の競馬。ジャパンダートダービーの舞台となる大井の2000mは、この馬の味方になるはずだ。
海外で武者修行した2歳王者デルマソトガケと、王者不在の国内でダート路線の筆頭に立ったミトノオー。この2頭の激突が見られるなら、今年のジャパンダートダービーは必見だろう。
だが、そんな2強に割って入れる可能性を示した馬がいる。武豊騎手が「和製フライトラインになってほしい」と惚れ込むヤマニンウルス(牡3歳、栗東・斉藤崇史厩舎)だ。
実績こそ2戦2勝と2強に一歩劣るが、その2戦で2着馬につけたタイム差が合計5.3秒。それもデビュー戦で4.3秒の大差をつけた2着ゴライコウは、後のJBC2歳優駿(G3)の勝ち馬だ。武豊騎手が6戦6勝で合計71馬身差をつけた米国フライトラインを引き合いに出すのも頷ける、異次元のパフォーマンスを見せている。
もし、ジャパンダートダービーに駒を進めてくれば3強対決となり、大きな盛り上がりを見せるはずだ。だが、その一方でミトノオーにも騎乗している主戦・武豊騎手にとっては頭の痛い選択になるに違いない。
リーディングジョッキー川田将雅が英才教育を施しているユティタム(牡3歳、栗東・須貝尚介厩舎)も忘れてはならない。
昨夏のデビュー戦こそ2着に敗れたが、勝ったペリエールはその後、全日本2歳優駿で3着、ヒヤシンスS(L)1着、UAEダービーで4着と、こちらもジャパンダートダービーに名を連ねてもおかしくない強豪だ。さらに騎乗したC.ルメール騎手が「まだ子供」と話していた通り、まだまだ発展途上だった。
そこで陣営はじっくりと成長を促し、川田騎手との新コンビで迎えた2戦目は12月だった。+20キロという馬体重だったが、8馬身差で圧勝すると、そこからとんとん拍子で3連勝。好内容だった前走の青竜S(OP)では須貝調教師が「強かった、凄いね」と絶賛し、川田騎手も「良い内容で無事に通過してくれました」と、まるで通過点といった口ぶり。こちらはすでにジャパンダートダービーへ進むことが発表されている。
他にも、日本ダービーに出走する2歳王者ドゥラエレーデも高いダート適性を示している。デビュー戦を8馬身差、1勝クラスを4馬身差で難なく突破したセラフィックコール。川田騎手がDMMバヌーシーのパーティーで「日本を代表するダート馬に育つ」と賛辞を惜しまなかったミスティックロアなど、今年のダート3歳馬は本当に大物候補が目白押しといった状況だ。
一方ジャパンダートダービーは、上記のJRA勢を「地方勢」が迎え撃つ戦いでもある。
地方馬と聞いて、あまり期待していないファンもいるかもしれないが、一昨年は地方勢のキャッスルトップが勝利。さらに2019年も3着にミューチャリーが食い込むなど、近年は決して侮れない力関係になっている。
その上、今年はJRAだけでなく地方にも有望な3歳馬が多数いる。その代表格が地元・大井のマンダリンヒーロー(牡3歳、大井・藤田輝信厩舎)だ。
ここまで5戦4勝。若駒の登竜門・ハイセイコー記念競走の勝利だけでなく、本馬が特筆されるべきは、その国際実績だろう。今春は地方馬ながら米国へ遠征してサンタアニタダービー(G1)で堂々の2着。そのままケンタッキーダービーにも挑戦した(12着)、規格外の存在だ。大井が舞台ならJRA勢にとっても脅威になることは間違いないだろう。
そのマンダリンヒーローに国内唯一の敗戦を味わわせたのが、浦和のヒーローコール(牡3歳、浦和・小久保智厩舎)だ。
昨年のNARグランプリ2歳最優秀牡馬。10戦6勝、2着2回、3着1回という実績も然ることながら、唯一の着外も全日本2歳優駿の4着。他にも伏竜Sでミトノオーの3着など、すでにJRA勢のトップホースと矛を交えている。ややスピードタイプに映るものの、ジャパンダートダービーでも大崩れすることはないだろう。
これだけを見ると、国際派のマンダリンヒーローと国内派のヒーローコールは、JRAのデルマソトガケとミトノオーとのライバル関係にも似ている。
しかし、今年の大井には、この2頭を上回る大将が存在する。無敗のミックファイア(牡3歳、大井・渡辺和雄厩舎)だ。
ここまで4戦4勝という戦績も然ることながら、4戦でつけた着差は合計19馬身。特に大井のクラシック第1弾・羽田盃では、先述した2着ヒーローコール以下を6馬身差にちぎり捨てている。順調に行けば、地方勢の大将はこの馬だ。
後続をちぎる「インパクト」という点では、名古屋の女王セブンカラーズ(牝3歳、愛知・川西毅厩舎)の名を挙げないわけにはいかないだろう。
4戦4勝のミックファイアが2着馬につけた合計が19馬身なら、7戦7勝のセブンカラーズは合計約56馬身。地元名古屋で無敵の快進撃を続けている。特に前走の名古屋クイーンCでは、2着馬を2.8秒も突き放す驚異的なパフォーマンス。その逃げっぷりは、父コパノリッキーを彷彿とさせる。
他にも、門別でJBC2歳優駿2着を含む8戦6勝、2着2回のパーフェクトホース・ベルピットなど、今年はとにかく全国の競馬場で怪物候補が誕生している。
無論、今回紹介した馬すべてがジャパンダートダービーに駒を進めるかは、現時点では未定だ。果たして、7月12日の大井にどれだけのメンバーが集うか。オークス&日本ダービーだけではなく、今年のJDDも異例の盛り上がりを見せるレースになりそうだ。