「最終兵器」デアリングタクトの全妹が登場! 大不振の「No.1種牡馬」エピファネイアが背水の陣で挑むセレクトセール2023
かつてのサンデーサイレンス、そしてディープインパクト。種付け料最高額の種牡馬にとってセレクトセールは、いわば“勝ち確”のお披露目の場だ。
バイヤーたちはNo.1種牡馬の産駒が手に入る貴重な機会として熱視線を送り、挙って良血馬の争奪戦を繰り広げる――。大威張りのNo.1種牡馬にとっては、その威厳をさらに高める格好のステージと言えるだろう。
しかし、現在のNo.1種牡馬エピファネイアにとって、今年のセレクトセールは少々意味合いが異なる戦いになりそうだ。
三冠牝馬デアリングタクトや、一昨年の年度代表馬エフォーリアなどの活躍もあり、現在の種付け料1800万円は、ロードカナロアら2位タイの1200万円の1.5倍という圧倒的な首位に立っている。
そんな背景もあって、昨年のセレクトセールではモシーンの2022が3億3000万円(税込・以下同)、シーズアタイガーの2022が3億800万円、アウェイクの2021が2億7500万円など上々の結果。No.1種牡馬の人気ぶり、そして威厳を競馬界に大きくアピールすることに成功した。
しかし、ここ最近はエピファネイアに“逆風”が吹いている。
昨年、エピファネイア産駒でJRA重賞を勝ったのは、府中牝馬S(G2)のイズジョーノキセキだけ。デアリングタクトやエフォーリアなどの看板馬が失速し、G1勝利はおろか重賞さえ1勝に終わり、前年6位だった種牡馬リーディングも9位まで後退した。昨夏のセレクトセールこそ上々の結果に終わったエピファネイアだが、No.1種牡馬の巻き返しを信じたバイヤーたちの期待を裏切る格好で2023年を迎えている。
そして迎えた2023年上半期だったが、状況はさらに深刻だ。
3歳クラシックに加え、天皇秋・春(G1)や宝塚記念(G1)など、今年も大いに盛り上がった春のG1戦線。だが、エピファネイア産駒の重賞勝ち馬はエプソムC(G3)のジャスティンカフェだけという寂しい結果に終わっている。
無論G1を勝つことは簡単ではないが、出走自体がわずか3頭しかいない上に最も人気したのがNHKマイルC(G1)のモリアーナの5番人気では、そもそもG1に出走できる実力馬が揃っていない状況と言わざるを得ない。
種牡馬リーディングも13位とトップ10から陥落しており、一昨年には1.44あった(種牡馬ごとの産駒の平均収得賞金額の大小を表す)アーニング・インデックスも0.74(いずれも3日現在)まで下降している。ちなみに、これはトップ30で最低の数値だ。
エピファネイアにとって、今年のセレクトセールはそんな逆境の中で迎える。1歳馬14頭、当歳馬12頭の2日間合計26頭が上場されるが、まさに背水の陣といった状況だ。
逆境を跳ね返す起爆剤として最初に挙げたいのが、デアリングバードの2023(牝)だ。
全姉は言わずもがな、三冠牝馬のデアリングタクト。姉はノルマンディーサラブレッドレーシングで一口4.4万円/400口の計1760万円というリーズナブルな価格で募集されたが、今やその価格は何倍にも膨れ上がっているはずだ。
ただしデアリングタクト以降、デアリングバードの産駒から目立った活躍馬は出ておらず、本馬の上には全姉が4頭もいる。一発の爆発力は文句なしの最上級と言えるだろうが、産駒の当たりハズレの差が激しいのはエピファネイアの評価が揺らいでいる理由の1つでもある。
また、エピファネイアが苦戦しているもう1つの理由が、種牡馬としてのスピード不足だ。
現役時代のG1勝ちは菊花賞(G1)とジャパンC(G1)とスタミナ色が濃いエピファネイア。父シンボリクリスエスと同じく、産駒にもその特徴が受け継がれており、主な活躍の場は芝の中長距離となっている。JRAでは現在年間3000を超えるレースが行われているが、その約半数が1600m以下。これがエピファネイアの成績が伸び悩んでいる大きな理由だ。
従って繁殖牝馬には一定のスピードが求められるが、その点で期待できるのがセリエンホルデの2023(牡)とピクシーホロウの2023(牡)である。
セリエンホルデの2023の半兄は、一昨年のNHKマイルC(G1)を勝ち、今春の安田記念(G1)でも3着したシュネルマイスター。こちらは欧州のトップマイラーであるKingman産駒のため、兄同様マイル路線というわけにはいかないかもしれないが、血統的にも今年のセレクトセールの目玉の1頭になりそうだ。
ピクシーホロウの2023の半兄は、一昨年のスプリンターズ(G1)の勝ち馬ピクシーナイト。モーリス産駒の兄は残念ながら香港スプリント(G1)で落馬事故に巻き込まれて以降は不振に陥っているが、順調にいけば長きにわたってスプリント界を背負っていけるだけの大器だった。
またピクシーホロウからは、ブラックタイド産駒の半兄フェーングロッテンも昨年のラジオNIKKEI賞(G3)を勝つなど、重賞戦線で活躍中だ。エピファネイア産駒のピクシーホロウの2023は、どちらかといえばこちらに近い距離適性になりそうだが、安定して産駒から活躍馬が出ていることは大きく評価されるはずだ。
他にもヴィクトリアマイル(G1)を勝ったホエールキャプチャ、アドマイヤリードの産駒や、今年唯一の重賞勝ち馬ジャスティンカフェを全兄に持つカジノブギの2022、2023など、バイヤーの注目を集めるだけのラインナップは揃っている。
果たして、来週に迫ったセレクトセール2023において、逆境に喘ぐNo.1種牡馬にどういったジャッジが下されるだろうか。ここまで輝かしい道を歩んできたエピファネイアだけに、種牡馬としての今後を占う2日間となりそうだ。