【桜花賞】サンデーレーシング“三本の矢”が崩壊?アスコリピチェーノ、チェルヴィニア、クイーンズウォークに不安要素がズラリ
いよいよ今週末は牝馬三冠の第1戦、桜花賞(G1)である。オークス(G1)や秋華賞(G1)へと続く重要な初戦、このレースを勝利した馬のみが三冠の権利を手にする。これまでジェンティルドンナ、アパパネ、デアリングタクト、アーモンドアイ、リバティアイランドなどの名牝が駆け抜けた大一番、今年勝利するのはどの馬か?
ただ今年は例年と比較して紆余曲折があったといえるだろう。本来であれば人気の中心として注目されるチェルヴィニアだが、鞍上のC.ルメール騎手がドバイで落馬し負傷、騎乗することができずB.ムルザバエフ騎手への乗り替わりとなった。その発表も直前の木曜までずれ込んだのだから、いかに現場が混乱していたかわかる。
またトライアルレースのチューリップ賞(G2)やフィリーズレビュー(G2)は人気薄の穴馬が勝利し、阪神ジュベナイルF(G1)の1・2着馬はともに休み明けで出走という状況。そして関東馬は5頭が栗東トレセンで調整しており、そのままレースに挑むというのも興味深いところ。
上位人気必至の3頭に思わぬ落とし穴?
そんな今年の桜花賞だが、中心はやはりサンデーレーシングの“三本の矢”といえるチェルヴィニア、アスコリピチェーノ、クイーンズウォークだろう。
チェルヴィニアは昨年のアルテミスS(G3)を圧倒的な末脚で勝利し、いち早く桜花賞候補に名乗りを上げた。アスコリピチェーノは新馬戦、新潟2歳S(G3)、阪神JFを3戦3勝で制し、昨年の2歳女王に輝いた馬。関東の北村宏司騎手というベテランが騎乗するのも興味深い。そしてクイーンズウォークは中内田充正厩舎が管理し、鞍上は川田将雅騎手というリバティアイランドのコンビ。クイーンC(G3)を勝利し桜花賞に挑む。
サンデーレーシングは、他にもアネモネS(L)の2着で権利を獲得したテウメッサを含めて4頭が出走するが、やはり重賞勝ちの3頭が中心。昨年のリバティアイランドに続く勝利を目指しているだろう。
だが、この“三本の矢”は崩壊危機といえるほどの不安要素があり、危険な人気馬と言わざるを得ない状況にある。
まずチェルヴィニアは、そもそも昨年のアルテミスS、つまり10月28日以来のレース。過去10年を見ても、前走が前年の10月で3着以内に好走した馬はいない。3着以内に入った30頭はすべて、前走が前年12月のG1レース(阪神JF・朝日杯FS)か、当年に入ってからのレースである。今は前哨戦を使わないローテーションが定着しているものの、さすがにこのレース間隔は開きすぎか。管理する木村哲也調教師も調整過程に不安をこぼしており、「追い切りは満足のいくものではなかった。中身もまだこれからで、動き、息遣いも良化途上」(3月20日)「追い切りの動きはもうひとつ。休み明けの影響もあるかもしれません」(3月27日)と先週までの調教に不満をこぼしていた。
そしてデビューからすべて左回りのレースしか走っておらず、右回りの経験がないのもマイナス。さらに栗東トレセンで調整しているとはいえ関西遠征も初めてだ。また木村厩舎はイクイノックスなどで多くのG1レースを勝利しているが、意外にも牝馬のG1は1勝と少ない。鞍上の乗り替わりも加わって不安を感じずにはいられない。
アスコリピチェーノは阪神JF以来の出走となるが、実はノーザンファーム天栄に放牧中に熱発しており、美浦トレセンへの入厩が2週間ほど遅れたという事情がある。陣営のコメントからは不安を感じないものの、2週間の調整遅れはマイナスでしかなく、ここに大きな不安がある。
そして桜花賞は関東馬、特に関東所属の騎手にとって鬼門ともいえるレースだ。美浦を拠点とする騎手が最後に勝利したのは、2010年のアパパネで鞍上は蛯名正義元騎手(現調教師)。そして衝撃なのは1986年以降でみても、その蛯名騎手のみなのである(2021年ソダシの吉田隼人騎手は当時栗東を拠点としていた)。関東馬はスターズオンアースやグランアレグリア、アーモンドアイなどが勝利しているものの、その鞍上は栗東所属の川田将雅騎手やルメール騎手、短期免許で来日している外国人騎手など。関東所属騎手はまったく勝てていないのが現状だ。その逆境を、北村宏騎手が乗り越えられるか、壁は決して低くはないだけに困難だろう。
クイーンズウォークは1800mでデビューしたようにもともとオークス狙い。前走でクイーンCに出走したのは、東京コースを経験する目的が大きかったと思われる。実際に川田騎手はデビュー戦後に「距離は2000~2400mくらいあっても良さそうです」と語っており、陣営もオークス向きと明言。チャンスはあるだろうが、この桜花賞に100%の状態で出走させるとは考えにくい。
またクイーンCから桜花賞のローテーションでの勝ち馬はスターズオンアースがいるが、クロノジェネシス、メジャーエンブレム、ヴィルシーナ、ハーパー、アカイトリノムスメ、ホエールキャプチャといった実力馬はすべて敗退したように、1986年以降クイーンCの勝ち馬が桜花賞で勝利した例はない。オークス向きとクイーンC勝利の実績から、期待よりも不安の方が大きい。
このようにサンデーレーシングが期待する3頭は、思った以上に厄介な不安要素を抱えている。昨年のリバティアイランドとはまったく異なる状況にあるといえるのだ。
おそらく上位人気に支持されるであろうこの3頭で、サンデーレーシング関係者としてはワンツースリーフィニッシュも期待していたかもしれないが、ここに来て穴馬が激走する余地がありそうだ。
それは武豊騎手のスウィープフィートか、あるいはJ.モレイラ騎手のステレンボッシュか。いずれにせよ今年の桜花賞は、サンデーレーシング期待の“三本の矢”に崩壊の懸念がある以上、波乱となることを意識しておいた方がいいだろう。